“診療看護師(NP) ” は、「看護ケアの視点」と「一定の診療スキル」のふたつを兼ね揃えた看護師です。看護師としてステップアップを図るために、診療看護師(NP)を目指そうと考えている人もいるのではないでしょうか。
この記事では、診療看護師(NP)の定義や役割、業務内容、資格の取得方法 について解説します。今後、診療看護師(NP)を目指そうと考えている人は、参考にしてみてください。
診療看護師(NP)とは?
診療看護師(NP:ナース・プラクティショナー)とは、大学院の修士課程で一定の医療行為の実践について学び、NP資格認定試験に合格した看護師のことです。
診療看護師(NP)は、医師の指示の下で侵襲の高い処置を行うことができます。また、資格取得にあたり、各疾患や治療内容について専門的に学んでいるため、患者さんの病状によっては、医師不在時に一定の範囲内の診療を行うことができます。
診療看護師(NP)の起源は、1960年代のアメリカにあります。 当時のアメリカでは、医師不足や医療費の高騰など深刻な問題があり、一部の診療行為を自律的に行える看護師が必要とされました。こうした背景から誕生したのが、ナースプラクティショナー(NP)という資格です。
日本でも人口減少にともない医師の不足や地域偏在が危ぶまれており、地域医療を支えるために、診療看護師(NP)の活躍が期待されています。
診療看護師(NP)の役割
診療看護師(NP)の役割は、医療現場のエキスパートとして、質の高い医療を提供することです。例えば、一般の看護師が患者さんに対して看護ケアを提供するまでには、看護師から医師への報告、医師から看護師の指示出し、看護師による指示受けと内容の実施など複数のステップを踏む必要があります。
上記のステップを経ることで、マンパワーが限られているなか、医師に負担がかかりやすくなります。その結果、患者さんに必要な医療をタイムリーに行えないという事態に陥ります。これは医療現場で起きている大きな課題のひとつです。
医学的な知識と実践を積んだ診療看護師(NP)は、患者さんの状態を踏まえたうえで、一定の範囲内の診療を行うことができます。具体的には、生活習慣病や慢性疾患を持つ患者さんへの薬の処方、発熱や下痢などの初期医療、救急医療の必要な患者さんに対するスピーディーな問診や検査の実施といったものがあげられます。
診療看護師は、看護ケアの視点を活かしつつ、 患者さんに一定の診療を行うという特徴をもちます。個々の病状に加えて、患者さんを取り巻く環境までも考慮し、包括的な医療ケアを提供することが診療看護師のミッションなのです。
さらに医師と看護師の中間の立場に位置する診療看護師には、チーム医療における多職種の調整役としての役割も期待されています。
診療看護師(NP)ができる相対的医行為の内容
診療看護師(NP)の大きな特徴は、“相対的医行為” を実践できることです。相対的医行為とは、医師から指示を受けたうえで 看護師が行える医療行為のことです。診療看護師が行える相対的医行為の例は、次のとおりです。
● 動脈採血、中心静脈ルートの確保
● 腹腔穿刺・胸腔穿刺
● 気管挿管や人工呼吸器の設定
● 麻酔管理の補助や手術助手 など
診療看護師(NP)は、医師の指示や到着を待たずに、一部の医療行為を行うことができます。診療看護師が患者さんに必要な処置をタイムリーに行い、医師が必要な診療に集中できれば、医療の質全体の向上にも貢献できるでしょう。
診療看護師(NP)は手術・薬の処方もできる?
診療看護師は手術の執刀や薬の処方を行うことはできません。これらは“絶対的医行為” と呼ばれ、専門的な診断や技術が必要とされるためです。絶対的医行為は医師のみが行うことができるものなのです。
麻酔管理の補助や手術助手、定期処方や検査オーダーの代行入力については、“相対的医行為” に該当し、診療看護師(NP)も行えます。
診療看護師(NP)と一般的な看護師の違いは?
診療看護師(NP)と一般の看護師では、業務内容や求められる役割が異なります。一般の看護師は、医師の指示の下で診療の補助や療養上の世話を行いますが、患者さんの診療をすることはできません。
一方、診療看護師(NP)は、プライマリケアやクリティカル分野などにおいて、一定範囲内の診療を行うことができます。
診療看護師(NP)と特定看護師の違いは?
診療看護師(NP)と“特定看護師”のどちらを目指そうか迷っている人もいるでしょう。特定看護師とは、診療の補助である特定行為を行える看護師のことです。ここからは診療看護師(NP)と特定看護師の違いについて説明します。
特定看護師について詳しく知りたい人は、こちらをご覧ください。
診療看護師は特定看護師よりも広い範囲の相対的医行為を行える
診療看護師(NP)は、特定看護師に比べ、行える医療行為の範囲が広くなります。
特定看護師が行える特定行為は、あくまで本人が研修を受けたものに限定されます。一方、診療看護師(NP)の養成カリキュ ラムは大部分の特定行為を網羅しているため、行える医療行為も幅広くなります。また診療看護師(NP)は、特定行為に加えて、相対的医行為を行うこともできます。
特定行為とは
“特定行為” とは、医師の手順書(指示)の下で看護師が行う医療行為のことです。特定行為を行うには、実践をともなった思考や判断力と、高度で専門的な知識とスキルが特に必要とされます。
特定行為は診療補助の枠組みの中にあり 、資格とは異なります。厚生労働省指定の研修を受けることで、特定看護師と名乗り、該当の特定行為を行えるようになります。
特定行為は、21区分38行為に分けられています。
1 | 呼吸(気道確保に係るもの)関連 | 1 | 経口または経鼻気管チューブの位置調整 |
2 | 呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連 | 2 | 人工呼吸器の設定の変更 |
3 | 非侵襲的陽圧喚起の設定の変更 | ||
4 | 人工呼吸管理をされている患者さんに対する鎮静剤の投与量の調整 | ||
5 | 人工呼吸器からの離脱 | ||
3 | 呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連 | 6 | 気管カニューレの交換 |
4 | 循環器関連 | 7 | 一時的ペースメーカーの操作と管理 |
8 | 一時的ペースメーカーのリード抜去 | ||
9 | 経皮的心肺補助装置の操作と管理 | ||
10 | 大動脈内バルーンパンピングからの離脱を行うときの補助の頻度の調整 | ||
5 | 心嚢ドレーンの管理関連 | 11 | 心嚢ドレーンの抜去 |
6 | 胸腔ドレーンの管理関連 | 12 | 低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧の設定や変更 |
13 | 胸腔ドレーンの抜去 | ||
7 | 腹腔ドレーンの管理に関するもの | 14 | 腹腔ドレーンの抜去(腹腔内に留置された穿刺針の抜去を含む) |
8 | ろう孔管理関連 | 15 | 胃ろうまたは腸ろうカテーテル、胃ろうボタンの交換 |
16 | 膀胱ろうカテーテルの交換 | ||
9 | 栄養カテーテルの管理(中心静脈カテーテル管理)関連 | 17 | 中心静脈カテーテルの抜去 |
10 | 栄養カテーテルの管理(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)関連 | 18 | 末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入 |
11 | 創傷管理関連 | 19 | 褥瘡や慢性創傷におけるデブリドマン |
20 | 創傷に対する陰圧閉鎖療法 | ||
12 | 創部ドレーン管理関連 | 21 | 創部ドレーンの抜去 |
13 | 動脈血液ガス分析関連 | 22 | 直接動脈穿刺法による採血
|
23 | 橈骨動脈ラインの確保 | ||
14 | 透析管理関連 | 24 | 血液透析器や血液透析ろ過器の操作と管理 |
15 | 栄養や水分管理に係る薬剤投与関連 | 25 | 点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整 |
26 | 脱水症状に対する輸液補正 | ||
16 | 感染に係る薬剤投与関連 | 27 | 感染兆候のある患者さんに対する臨時の薬剤投与 |
17 | 血糖コントロールに係る薬剤投与関連 | 28 | インスリンの投与量の調整 |
18 | 術後疼痛管理関連 | 29 | 硬膜外カテーテルからの鎮痛剤の投与と投与量の調整 |
19 | 循環動態に係る薬剤投与関連 | 30 | 持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整 |
31 | 持続点滴中のナトリウム・カリウム・クロールの投与量の調整 | ||
32 | 持続点滴中の降圧剤の投与量の調整 | ||
33 | 持続点滴中の糖質または電解質輸液の投与量の調整 | ||
34 | 持続点滴中の利尿剤の投与量の調整 | ||
20 | 精神および神経症状に係る薬剤投与関連 | 35 | 抗けいれん剤の臨時投与
|
36 | 抗精神病薬の臨時投与 | ||
37 | 抗不安薬の臨時投与 | ||
21 | 皮膚損傷に係る薬剤投与関連 | 38 | 抗がん剤等が血管外漏出したときのステロイドの局所注射やその投与量の調整 |
参考:特定行為区分とは
診療看護師(NP)の給料・年収はいくら?一般的な看護師との違い
診療看護師(NP)の給料は、年収が約600~650万円 、月給にすると約36~40万円です。多くの医療機関では、診療看護師に対して資格手当を支給しています。
また診療看護師(NP)になるには、5年以上の看護師経験が必要です。看護師としての臨床経験が10年以上の人も多く、経験年数が給与に反映されるため、その分収入も高くなります。
診療看護師は、2024年10月現在では看護師全体の0.05%ほどしかいない上級資格です。診療看護師資格のある人の多くは、病棟師長など役職を任されることもあり、一般的な看護師よりも収入が高くなります。役職に就いている診療看護師であれば、役職手当も含め年収は700万円以上になります。
診療看護師になるためには?
診療看護師になるのに必要な条件は以下です。
● 5年以上の看護職経験
● 診療看護師養成カリキュラムのある大学院修士課程の修了
● NP資格認定試験の合格
NP養成カリキュラムのある大学院はまだまだ少なく、全国に19校から選ぶ必要があります(2024年10月時点)。NP資格認定試験は毎年3月に筆記試験が行われます。
また、日本の看護師免許があり、かつ海外のNP資格を持っている人も、日本NP教育大学院協議会に事前連絡をすれば、 日本のNP資格認定試験を受験することができます。
まとめ
診療看護師(NP)は、特定行為に加えて医師の指示の下、 相対的医療行為を実践できる看護師です。診療看護師になるには、5年間の看護職経験を積んだ後、指定の大学院修士課程で医学知識や初期医療の実践を学び、NP資格認定試験に合格する必要があります。
近年、高齢化や医師不足により、プライマリケアやクリティカル分野で診療看護師(NP)が活躍することが期待されています。医師不足や地域偏在はますます深刻化することが見込まれるため、 診療看護師(NP)の需要は今後もますます高まっていくでしょう。
診療看護師(NP)はミニドクターではなく、看護師の視点を持ちつつ、一部の診療行為を通し患者さんに包括的な医療ケアを提供できる人材です。看護師としてさらに飛躍を目指したい人は、診療看護師(NP)を視野に入れて将来のキャリアプランを立てるのもおすすめです。
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