退院調整看護師は、患者の退院後の生活を見据え、他職種と連携しながらサポートを行います。主な役割は、患者や家族の不安を解消し、必要な医療や介護サービスが円滑に提供されるよう調整することです。
この記事では、退院支援の流れ、退院調整看護師の仕事内容などを詳しく解説します。退院調整看護師になる方法や必要なスキルについても紹介していきます。
退院調整看護師とは?どんな役割?
退院調整看護師とは、入院中の患者が退院後も地域で安心して生活を送れるよう、サポートや調整を行う専門職です。職場によっては「退院支援看護師」と呼ばれることもあります。
社会の高齢化や慢性疾患の増加に伴い、日本では従来の病院での治療や療養支援から、地域への移行が求められるようになりました。2008年の診療報酬改定では、“退院調整加算”が新設され、患者の容体が安定してからできるだけ早い段階で、在宅復帰に向けた支援を行う病院を評価する制度も確立しました。その中心的な役割を担う「退院調整看護師」のニーズも高まっています。
退院調整看護師は、患者の身体状況や生活環境を考慮し、医療スタッフや介護保険サービス事業所・行政と連携しながら、退院後のケア計画を立てる役割を担います。
具体的には、療養場所の調整、訪問看護や介護サービスの手配、必要な行政手続きの支援といった内容です。
病院で急性期治療を終え、退院が決まったとしても、患者や家族が抱える不安が尽きることはありません。「退院して、今まで通り、自宅で一人で生活するのは不安」「日中家族が不在だから、訪問看護や訪問介護のサービスを利用できないか」「退院したあともリハビリを続けたい。在宅で受けられるリハビリはあるか」退院調整看護師はこうした患者本人や家族が抱く不安や希望を汲み取り、適切なアドバイスや情報を提供し、退院後の生活がスムーズに進むようサポートするのです。
参照元:公益社団法人日本看護協会|2025年に向けた看護の挑戦 看護の将来ビジョン
参照元:厚生労働省|平成20年度診療報酬改定における主要改定項目について(案)退院後の生活を見通した入院医療の評価
退院調整看護師と病棟看護師の違い
退院調整看護師は、退院後の生活を見据え、患者の身体的・精神的な状況に合わせた環境調整、ケアサービスの手配を行います。
患者が安心して退院後の生活に移行できるよう、退院調整看護師は医師や医療ソーシャルワーカー(MSW)・理学療法士・薬剤師など他職種と連携し、退院に向けた計画や調整を進めます。
その一方で、病棟看護師は主に入院中の患者に対して必要な看護ケアを提供します。
病棟看護師が退院に向けて、患者に直接的なサポートを行うのに対して、退院調整看護師は、退院後の生活を見据えた支援を行います。ここが両者の大きな違いです。
参照元:東京医療保健大学|急性期病院から自宅へつなぐ退院調整看護師の役割
退院調整看護師と医療ソーシャルワーカー(MSW)の違い
退院調整看護師と医療ソーシャルワーカー(MSW)は、共に退院支援に携わりますが、役割が異なります。
退院調整看護師は、医療的な観点から患者の身体状態を把握し、退院後のケアプランを策定します。
一方、MSWは、主に患者の社会的な背景や家族との関係を考慮し、介護サービスの手配や福祉制度の活用のアドバイス、経済的な問題の解決にむけた支援を行います。
両者は、患者の退院後の生活を包括的に支えるべく、医療と生活面、それぞれの専門性を発揮しながら、互いに協力・連携しているのです。
退院支援の概要と流れ
“退院支援”とは、入院中の患者が安心して退院後の生活を送れるように支援することです。
退院支援の流れは、以下の通りです。
1. 退院支援の必要性を判断する
まずは、入院時に患者の健康状態や家庭での生活状況を把握し、退院支援が必要かどうか判断します。必要と判断した場合には、患者や家族の抱く不安や希望を考慮し、退院後の生活に向けた支援を行います。
2. 退院支援の方向性を決める
次に、医師や看護師・理学療法士・ソーシャルワーカーなど他職種とともに、退院に向けた方向性を検討・決定します。
3. 必要な医療・介護ケアサービスを調整する
患者が自宅での生活に不安を感じる場合、訪問看護をはじめとした介護保険サービスの手配も必要になります。退院後のケア計画を具体的に策定した後、患者・家族に療養生活に関する説明や指導などを行います。
4. 退院を迎える
退院後は、定期的にモニタリングを行い、患者が安心して生活できるよう継続的にサポートします。
退院支援の役割はこの一連の流れを通して、患者がスムーズに退院後の生活に適応できるようサポートすることです。
参照元:島根県立中央病院|退院支援
退院調整看護師の仕事内容は?
退院調整看護師は、退院時のスクリーニングやアセスメント、退院前のカンファレンス、退院後のモニタリングなどの業務を担当します。
1.スクリーニング(入院時)
スクリーニングは、患者が入院した際に行われる初期評価のことで、退院調整が必要かどうかを判断するプロセスです。退院調整看護師は入院後48時間以内を目安に、他職種と連携しながらスクリーニングを実施します。
まずは、患者の家庭状況や社会的背景、退院後に必要な支援内容を把握し、医療・介護サービスの手配や生活環境の調整を行います。
多くの病院ではスクリーニングシートが導入されており、それに基づき、既往歴や服薬状況などを評価します。しかし、入院中に患者の状況が変化することも珍しくありません。入院時には「退院支援の必要性がない」と判断したケースでも、必要に応じて再評価を行うこともあります。
2.アセスメント(入院時)
アセスメントは、患者の健康状態や生活環境を詳細に評価するプロセスのことです。退院調整看護師は、患者が必要とする医療的な支援、家族・地域社会のサポートがどれだけ得られるかを総合的に評価し、退院後に患者が直面するであろう課題に対し、具体的な対策を立てます。
例えば医療的管理の1つである服薬管理・創処置。入院前には自身でできていた日常生活動作やこれらの医療的な管理を、退院したあとも行える能力はあるか、家族や地域社会から支援が受けられるかなどを想定しながら、アセスメントを行います。
アセスメントでは、患者・家族が退院後の生活をどのようにイメージしているか、把握することも重要です。
3.カンファレンス(退院前)
退院前のカンファレンスは、患者が退院後に安心して生活できるよう、多職種が集まり最終的な調整を行う重要な会議です。
医師や看護師・MSW・ケアマネジャー・理学療法士・薬剤師など患者を取り巻く関係者が参加し、患者の退院後のケア計画を詳細に決定します。退院前カンファレンスには患者本人や家族も参加し、自らの情報や意向を伝えたり、必要な情報を共有したりといったことも行います。
カンファレンスでは、担当のケアマネジャーに対して、医師や看護師・理学療法士などから患者の病状・日常生活動作・課題などの情報提供が行われます。その上で、カンファレンスに参加する関係者全員で退院後に必要な医療・介護サービスや課題を確認し、患者が安心して退院後の生活に移行できる体制を整えていきます。
4.モニタリング(退院後)
退院後のモニタリングでは、患者が退院後の生活に適応しているか、定期的に確認します。
退院調整看護師は、退院後も患者や家族と連絡を取り合い、問題が発生した場合には迅速に対応します。退院後の数日間は病状が悪化するケースもあり、問題が見つかったら早期に状況を把握し、対処することが重要です。
また、退院調整看護師は訪問看護師やケアマネジャーとの連携、外来受診時の確認を通じて患者の状態をチェックし、必要に応じて追加の支援や調整を行います。
このように、退院調整看護師は患者が退院してからの生活もサポートしているのです。
退院調整看護師の1日のスケジュールについて
退院調整看護師の1日には、さまざまな業務が組み込まれています。日々の業務は、他職種と連携しながら行います。以下は、退院調整看護師の1日のスケジュール例です。
時間 | 業務内容 |
8:30 | 勤務開始 カンファレンスや会議の予定確認、情報収集 |
9:00 | 退院調整の実施 新規患者や継続中の患者の情報収集と調整 |
11:00 | MSW(医療ソーシャルワーカー)との会議 情報共有 |
12:00 | お昼休憩 |
13:00 | 患者や家族との面談 退院後の生活についての希望や不安な点の聞き取り |
15:00 | 病棟カンファレンスに参加 他職種と連携し、退院後の計画を確認 |
15:30 | 退院調整の実施 訪問看護をはじめとした介護サービスなどの手配を行う |
17:00 | 患者情報の記録 情報共有のための記録 |
17:30 | 退勤 |
退院調整看護師になるメリット・デメリットとは?
退院調整看護師になるメリットとして、患者やその家族から感謝される機会が多く、やりがいを得られやすいことが挙げられます。退院後の生活を支援し、患者の自立した生活をサポートする役割は、非常に意義深く、満足感があることでしょう。
また、他職種と協力して業務を進める退院調整看護師には、チーム医療の重要性を学ぶ機会が豊富に用意されています。さらに、退院調整看護師には夜勤勤務がなく、土日休みのところもあり、働きやすい環境を得られることも魅力の1つです。
退院調整看護師として働く上でのデメリットは、業務量が多く、精神的な負担が大きいことです。退院後の生活設計が思うようにいかない場合には、「患者さんや家族の期待に応えられない」というプレッシャーを感じることがあります。
退院調整看護師は、他職種との連携が必要不可欠な仕事です。そのため、チーム内で意見が食い違った場合、ストレスになることもあるでしょう。
退院調整看護師が配置されている病院はまだまだ少なく、求人数が限られており、職を得る機会が少ないことも難点です。退院調整看護師になるためには臨床経験が求められる傾向にあり、経験が浅い看護師にとってはハードルが高い場合もあるでしょう。
退院調整看護師に向いている人の特徴・必要なスキル
ここからは、退院調整看護師に向いている人の特徴や必要なスキルについて解説します。
1.さまざまな職種と連携・調整するのが得意
退院調整看護師に向いているのは、さまざまな職種と連携しながら業務を進めることが得意な人です。
医師やケアマネジャー、理学療法士などと協力し、患者の退院後の生活を支援する退院調整看護師には、多職種間の調整力と円滑なコミュニケーション能力が求められます。
例えば、退院に向けたケアプランを立案する際には、各職種の意見をまとめ、最適なサポート体制を整える必要があります。多職種間の調整役として全体をリードできる人は、この職種に向いていると言えるでしょう。
2.患者さんの気持ちを汲み取る傾聴力が高い
退院調整看護師には、患者や家族の気持ちを理解し寄り添える、高い傾聴力が求められます。
退院支援においては、退院後の生活に対して不安を抱える患者や家族に丁寧に寄り添うことで、信頼関係を築くことができ、患者が望む退院後の生活を実現させやすくなります。
例えば、病気への不安から退院後の生活をイメージできない患者に対しては、まず今抱いている不安を解消するサポートから行う必要があります。相手の意見を尊重し、柔軟に対応できる人は、退院調整看護師に向いています。
3.社会福祉や介護保険に関する知識がある
退院調整看護師には、社会福祉や介護保険サービスに関する知識が求められます。患者の退院後の生活を支援するには、医療的なアドバイスだけでなく、福祉サービスや介護保険制度について把握し、在宅復帰後に利用できるサービスを的確に紹介することが必要なのです。
退院調整看護師が社会資源を熟知することで、患者の退院後の生活を支える環境を整えやすくなります。医療と福祉介護を連携させ、包括的な支援を提供する能力は、退院調整看護師にとって必要不可欠です。
4.退院後の患者の生活をサポートしたい
病棟で働く中で、「退院後も患者の生活を支えたい」と強く思う人は、退院調整看護師に適しています。患者が退院後も安心して暮らすために必要な支援を提供し続けるには、情熱と責任感が求められます。
退院調整看護師が退院後の生活支援やケア計画の調整を綿密に行うことで、患者が地域での生活にスムーズに適応する手助けになります。入院中のケアだけでなく、退院後の生活全体に関わりたいという思いが強い人にとって、退院調整看護師は非常にやりがいのある職種です。
退院調整看護師に必要な資格
退院調整看護師になるために必要な資格は特にありません。看護師資格があれば、退院調整看護師になれます。
ただし、退院調整看護師には「看護経験3年以上」など、実務経験が重視されます。他職種との連携・調整が必要とされるため、主任や看護師長など、リーダー経験を持つ看護師が任命されるケースも多い傾向にあります。
また、ケアマネジャー(介護支援専門員)や認定看護師の資格があると、より専門的な支援が可能になります。他にも、地域単位での退院支援に関する研修を受講することで、退院調整看護師に必要な知識やスキルを強化することができるでしょう。
退院調整看護師になるには?
退院調整看護師になるにあたり、看護師資格以外に特別な資格や認定は必要ありません。ただし、病棟勤務の経験があると、病院内の業務調整がスムーズに進みやすく、採用で有利になるでしょう。
地域によっては「退院支援看護師育成プログラム」を実施しているところもあり、退院調整に必要な知識やスキルを身につけることができます。このようなプログラムを通し介護保険や地域包括ケアシステムについて学んだり、他職種との連携方法を実践的に習得したりすることができれば、退院調整看護師になる近道になるかもしれません。
また、訪問看護や地域連携業務の経験を積むことでも退院調整看護師として働くうえでの知識やスキルが身に付き、退院支援部門でのキャリアを築くのに役立ちます。
さらに、認定看護師や専門看護師として、家族看護や在宅看護の専門性を活かしながら業務に従事することも一つの方法です。キャリアアップを図り、退院調整部門のリーダーや責任者として活躍する道も開かれています。
まとめ
退院調整看護師は、患者の退院後の生活を支える重要な役割を担っており、入院中から患者の退院後を見据え、他職種と連携しながらスムーズな在宅移行をサポートします。
主な仕事内容には、入院時のスクリーニング、アセスメント、退院前のカンファレンス、退院後のモニタリングが含まれ、患者と家族に寄り添いながら支援を提供します。
退院調整看護師には、協調性やコミュニケーション力、傾聴力が必要です。また、社会福祉や介護保険制度の知識も求められます。かんたんに務まるものではありませんが、看護師としてのスキルを活かし、患者の在宅復帰後の生活の質を向上させるやりがいのある職種です。
スマイルナースでは、豊富な求人情報から、希望条件に合った職場をご紹介します。退院調整看護師として働ける職場をお探しの人は、お気軽にお問い合わせください。
看護師の求人探し・転職のことなら「スマイルナース」