クリニックは夜勤や休日出勤が少ないところが多く、働きやすい職場として看護師に人気があります。夜勤の負担を軽くしたり、プライベートを充実させたりするために、病院からクリニックへ転職を希望する人も多いでしょう。
この記事では、クリニックの概要や看護師の働き方、クリニックへ転職するメリット、デメリットを紹介します。クリニックへの転職を成功させるためのポイントも解説しているので、病院からクリニックへの転職を考えている人は、参考にしてみてください。
クリニックの概要
病院とクリニックには、入院ベッド数やスタッフの配置基準、役割において法律で定義された明確な基準があります。まずは、クリニックがどのような医療機関であるのかについて解説します。
クリニックは「19床以下」の医療機関
クリニックは、入院病床が19床以下の医療機関です。
クリニックや病院のあり方については、医療提供施設の開設、管理に関する事項などを定めた法律である「医療法」により定義されています。医療法の定義によると、クリニックの入院病床数は19床以下と定められています。
病院は入院病床数が20床以上と定められており、必ず入院設備を持ちます。しかし、クリニックは必ずしも入院設備を備える必要はありません。実際のところ、入院設備のあるクリニックは減少傾向であり、入院設備を持たない無床のクリニックが医療機関の9割以上を占めています。
出典:医療法 e-Gov法令検索
厚生労働省 医療施設動態調査(令和5年3月末概数)
クリニックの人員配置基準
クリニックと病院では、人員の配置基準が異なります。医療法では、医師や看護師、薬剤師、栄養士などの職種の配置基準が施設ごとに定められています。
たとえば、一般病院の場合、入院病床に対する医師の割合は「16:1」、看護師の割合は「3:1」と制定されています。この基準を下回ることは許されません。
一方、クリニック(診療所)は原則として医師1人で開業可能です。療養病棟のあるクリニック以外は、看護師の配置についての規定もありません。
なお、療養病床のあるクリニックの場合には、4床に対し1人の看護師の配置が必要です。
クリニックの役割
クリニックと病院を比較した場合、医療機関としての役割にも異なる点があります。
病院は重篤な怪我や病気の診療、救急搬送の対応など急性期医療や高度医療の提供を行います。そのため、医療設備が整っており、専門医も多く在籍していることが特徴です。
一方、クリニックは外来中心であり、軽い病気や怪我の治療から、慢性的な疾患の治療、健康に関する相談など、身近なかかりつけ医としての役割を主に担います。住民との信頼関係を築いたり、介護福祉関係者との連携をしたりと、地域一体で患者を支援する体制が求められます。
このように病院とクリニックは、患者の状態や治療内容に応じ、それぞれの医療機関の機能をいかしながら、地域の医療を支えています。
医院や診療所との違い
クリニックのほかにも、医院、診療所と呼ばれる医療機関があります。これらはすべて医療法による分類上「診療所」であり、名称が異なるのみで定義や役割は同じです。
医療法には「診療所は、これに病院、病院分院、産院その他病院に紛らわしい名称を附けてはならない」(第3条2項)という規定があります。
言い換えると、診療所に分類される医療機関は名称に「病院」という言葉を使わなければ、自由に名称を決めることが可能です。診療所の名称としては「〇〇クリニック」「〇〇医院」「〇〇内科」「〇〇産婦人科」などが一般的です。
出典:医療法 e-Gov法令検索
クリニックで働く看護師の環境や待遇
クリニックへの転職を希望する人は、働き方が自分に合っているのかどうか、イメージしておく必要があります。クリニックで働く看護師の仕事内容や環境、待遇について具体的に解説します。
クリニックでの看護師の仕事
クリニックで働く看護師の主な仕事内容は、医師の診察の補助です。具体的には検査キットや注射薬の準備、舌圧子の準備、触診の手伝いなど、その時々の状況に応じてさまざまなことをします。
場合によってはレントゲン画像の現像や心電図の測定、カメラ機器の洗浄など、病院では看護師が行わないような業務を任されることもあります。小規模なクリニックであるほど1人、2人など少人数ですべてに対応する必要があり、医師しかできない仕事以外はすべて看護師が行う可能性があることを把握しておきましょう。
また、受付や電話対応、カルテ整理などの事務仕事も看護師の仕事となる場合もあります。受付や事務専任のスタッフを配置するところもあり、勤務するクリニックがどちらにあたるのか、事前に確認するとよいでしょう。
クリニックで働く看護師の待遇や勤務状況
次に、クリニックで働く看護師の給与面や勤務状況について見ていきましょう。
日本看護協会が2021年に発行した「看護職員実態調査」によると、正職員におけるクリニック(診療所)の看護師の月の平均税込給与総額は354,563円、病院勤務の場合は386,046円でした。
クリニック勤務よりも、病院勤務の方が平均給与総額が約3万円高いことがわかります。これには夜勤手当の有無が大きく関係するでしょう。無床クリニックの看護師は夜勤がないことから、夜勤のある病院の看護師よりも給料が低くなるのです。
さらに、一般的にクリニックよりも病院のほうが規模が大きいため、福利厚生の面でも充実する傾向にあります。小規模なクリニックの場合、社会保険の扱いが病院とは異なり、国民健康保険と国民年金への加入となる場合があるため注意が必要です。退職金制度や産休育休の取得実績の有無についてもクリニックにより異なります。面接時にあらかじめ確認しましょう。
なお、同調査では、病院勤務の看護師の回答者数3,664名に対し、クリニック(診療所)勤務の回答者数は84名でした。病院と比較すると、クリニックの正職員は大幅に少ないことがわかります。
出典:2021 年 看護職員実態調査
看護師の勤務体系
クリニックと病院とでは、看護師の勤務体系にも大きな違いがあります。
クリニックには入院施設のないところが多いため、基本的には夜勤がありません。たいていのクリニックが診療時間を日中のみにしており、土曜日の午後や日曜日など毎週定まった休診日があります。
看護師の勤務日や時間帯も院の診療時間が中心となり、休日も固定されています。なお、診療時間の長いクリニックでは、早番や遅番があるため確認が必要です。
また、お盆の時期や年末年始には一定の休診期間を設けるクリニックも多く、長期休暇が取りやすく、プライベートの予定も立てやすくなるという特徴があります。
クリニックの中抜けとは
地域性や立地にもよりますが、クリニックには「中抜け」と呼ばれる休憩時間があります。午前診療が終了してから午後診療が始まるまでの空き時間のことで、2〜4時間ほどの長い時間であることが一般的です。
中抜けの時間は、昼食をとるだけでなく、休憩室で本を読むなど好きなことをして過ごしたり、時間内であれば外出したりすることもできます。中抜けの時間帯に家に帰って家事を済ませることもできるため、クリニック勤務の便利な点として捉えられることもあります。
クリニックの看護師へ転職するメリット
病院からクリニックへの転職を検討する看護師は少なくありません。クリニックへ転職するメリットについて具体的に解説します。
毎週決まったスケジュールになる
クリニックでは毎週の勤務日が固定されることが多いため、プライベートの予定が立てやすいメリットがあります。
病院の夜勤を含む変則的な勤務形態とは異なり、クリニックの勤務時間は診療時間を中心とした日中の時間帯です。また、クリニックの多くは休診日が固定されています。先の勤務の予定が見通しやすく、プライベートの時間も充実させやすくなるでしょう。
仕事とプライベートを両立しやすい
クリニックに転職することで、仕事とプライベートの両立がしやすくなるでしょう。
クリニックは基本的に日曜日と祝日は休み、土曜日も午前診のみなど、カレンダーどおりの休みになるところが多くなります。
無床のクリニックではオンコール当番もないため、休日に職場から急に呼び出されることもありません。お盆やゴールデンウィーク、年末年始など大型連休も休みを取れるため、家族や友人と予定を合わせやすくなるでしょう。
また、クリニックでの勤務の場合、病棟勤務のような委員会活動や係活動がなく、残業が比較的少ない傾向にあります。残業が少なく勤務後の予定が立てやすいことは、働きやすい理由のひとつです。
責任の重い処置が少ない
責任の重い処置が少ないこともクリニックで働くメリットです。
クリニックでは、病院と比較すると患者の症状も軽く、病院のような難しい処置や侵襲の大きな治療は行われません。直接命に関わるような場面がほとんどないため、精神的な負担も軽くなります。
なお、専門分野に特化した一部のクリニックでは、一般的な病院よりも専門的な治療に携われる場合もあります。自分の極めたい分野が定まっている人は、専門医が診療を行うクリニックに転職し専門分野を学ぶという選択肢もあるでしょう。
職場の選択肢が多い
クリニックは病院よりも事業所数が多いため、求人が多いこともメリットのひとつです。選択肢が多いことで、条件に合う職場を選びやすくなります。たとえば自宅の近くや駅の近くなど、生活に合わせて働きやすい職場を選ぶこともできるでしょう。自宅から近いクリニックで働けば、通勤時間を短縮できます。
とくに子どもを保育園や学童クラブに預けて働く場合には、自宅から職場が近いと終業後すぐに子どもを迎えに行けたり、中抜けの時間に家事を済ませられたりと、子育てや家事との両立がしやすくなるでしょう。
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クリニックの看護師として働くことには、メリットだけでなくデメリットも存在します。デメリットを具体的に解説します。
給与が低くなる
勤務するクリニックにより差はあるものの、一般的にクリニックで働く看護師の給与は病院で働く場合よりも低くなります。
多くのクリニックには夜勤がありません。そのため、夜勤手当のある病院からクリニックへ転職すると、給与が大幅に減少することもあります。
給与の水準やボーナスの有無はクリニックにより大幅に変わるため、「病院で働く場合と仕事量が変わらないにもかかわらず給与が下がった」と不満に感じることもあるかもしれません。給与面を重視する場合には、転職前にきちんと確認しておきましょう。
業務量が多く負担が大きい
病院からクリニックに転職すると、業務量が多く感じる場合があります。
クリニックは病院とくらべ勤務する看護師の数が少なく、一人の看護師が幅広い業務を担当します。混み具合や診療の状況によっては大きな負担になることもあるでしょう。
また、少人数のスタッフで運営しているクリニックの場合は、事務スタッフが不足し、看護師が受付や電話対応、事務作業も担当することがあります。事務作業や雑務の兼務をしたくないと感じる人は、看護業務に専念できるクリニックを探しましょう。
急な休みは取りにくい
クリニックのデメリットのひとつとして、急な休みが取りにくいということが挙げられます。
クリニックの診療補助は、少ない人数の看護師で回しているため、一人1人でも欠員が出ると業務への支障が大きくなってしまいます。
子どもの発熱など急に休みが必要な場合には、ほかのスタッフに交代をお願いしなければいけない場面もあることを心得ておきましょう。
転職の際には、急な体調不良や子どもの発熱があったときにどの程度柔軟に休みを取れるのかを確認しておくことをおすすめします。
看護師としての成長が難しい
クリニックに転職することで、看護師としての成長が難しいと感じる場合もあります。病院と比較すると緊急性の高い重篤な患者に対応する機会や、専門的な処置を必要とする場面が少ないためです。血圧測定や採血、点滴のみなど、必要とされる看護手技が限定されており、スキルを磨きたい人には物足りなく感じることもあるでしょう。
また、受付業務やカルテの整理など、雑務が増えるのもクリニックの看護師の仕事の特徴です。いずれ病院勤務に戻りたいと考えている人は、看護業務をメインとして担当できるクリニックを選択しましょう。
看護師がクリニックへの転職を成功させるコツ
病院で働く看護師がクリニックへの転職を成功させるためには、押さえておくべきコツがあります。ここではクリニックへの転職を成功させるコツを2点解説します。
自分のキャリアを活かす
クリニックへの転職を決めたら、まずは自分自身が培ってきたキャリアを活かせる職場を探しましょう。これまでの職場が次のような単科の病棟に配属されていた場合、クリニックでもそのスキルを活かせる可能性があります。
● 小児科
● 産婦人科
● 整形外科
● 皮膚科 など
それぞれの診療科により、看護師の担当する業務内容や働き方が大きく異なります。これまでの専門知識を活かせるような職場を選びましょう。多くのクリニックでは、即戦力となる人材を求めています。特定の診療科での経験が多ければ多いほど、採用される確率も高まります。
採用面接では、採血や注射、点滴など基本的な手技が身に付いていることや、これまでにさまざまな症状や容態の患者を診てきた経験があることを伝えましょう。
働いている看護師の人数をチェックする
希望の求人が見つかった場合、そのクリニックで働いている看護師の人数をチェックしてみましょう。
クリニックは、病院と比較すると在籍している看護師の数が大幅に少ない傾向にあります。
スタッフの人数が少なすぎると、業務の負担が増えすぎたり、休みが取りにくかったりする可能性があります。入職してからのトラブルを避けるためにも、転職を決める際に、次の点についても可能な範囲で確認しておきましょう。
● 連休を取れるかどうか
● 人間関係や雰囲気について
● 急な休みを取れるかどうか
長く働き続けるためにはスタッフ同士の人間関係が非常に重要です。人間関係がよい職場であれば、スタッフ同士の連携が取りやすいだけでなく、困ったことを相談しやすく、精神面での負担も減らせます。
まとめ
この記事では、クリニックの概要や看護師の働き方、クリニックへ転職するメリット、デメリット、転職を成功させるためのポイントについて解説しました。
クリニックは、基本的に日勤のみで、カレンダーどおりの休みが取れるため仕事とプライベートを両立させたい人にはおすすめの職場です。しかし、クリニックへの転職には、給与が下がる可能性や、看護師としてのスキルを磨きにくいというデメリットもあります。転職を成功させるためにも、自分自身のキャリアを振り返り、生活スタイルにあった転職先を見つけましょう。
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