医師や看護師の仕事は、患者のケアからカルテの入力といった事務作業まで多岐にわたり、その業務量が多いことも、人材不足の要因のひとつです。医療クラークは、医療従事者のこれらの負担を軽減し、診療がスムーズに行われるよう、事務作業や書類の作成の補助、患者の案内といった業務を担います。
この記事では、医療クラークの仕事内容について解説します。また医療クラークと似た職種である医療事務との違いについても紹介します。
医療クラークとは?
医療クラークとは、医師の指示のもと、医療機関の事務的な作業を補助する職種のことです。
病院やクリニックで診療を行うにあたっては、治療の提供にともない多くの事務処理や書類作成が必要になります。具体的には、カルテの入力や検査・手術のスケジュール管理、診断書や同意書の作成、他院への紹介状の作成などです。
これらの作業を代行する人材がいることで、医師や看護師の負担を大幅に削減することができます。その担い手である医療クラークは、医療の質向上と効率化に欠かせない存在といえるでしょう。
医療クラークの仕事内容について
医療クラークは、医療現場を支える重要な役割を担っており、その業務内容は多岐にわたります。医療機関によって違いはあるものの、ここでは代表的な仕事内容を紹介します。
文書作成の代行
医療クラークの主要な業務のひとつに、文書作成の代行があります。具体的には医師の指示の下、または代理で、診断書や紹介状などを作成します。
作成する文書の例には、以下が挙げられます。
● 診断書
● 紹介状
● 各種証明書
● 報告書
● 入院関係書類
● 同意書
● 検査の説明用紙
医療用語を多数用いるこれらの書類を作成するにあたり、医療クラークには専門知識が求められます。また、内容に不備や間違いがないよう、医師とコミュニケーションを図る力も重要です。
カルテの代行入力
医療クラークは、医師の診療内容や指示された検査や処方薬、次回の予約日時をカルテに入力する業務も行います。診察中の医師の話を聞きながら、同時並行で必要な情報を電子カルテに入力していきます。医療クラークがこの入力作業を行うことで、医師は患者との対話に集中することができるのです。
カルテ入力には、医療用語に対する専門知識、医師の話を正確に聞く能力が求められます。また診察後には、カルテに入力する内容が正しいかどうか、医師に確認をとる必要があります。医療クラークには、診療のペースに合わせて医師と連携できる協調性も欠かせないといえるでしょう。
医療サービス向上のためのサポート業務
医療サービス向上のためのサポート業務も、医療クラークの仕事のひとつです。職場や働く部署により異なりますが、具体的には、次のような仕事があります。
● 電話対応
● 患者の検査案内
● 患者からの質問対応
● 入院患者の病室の手配
● 患者家族への対応
医療クラークが患者と最初に接する機会は多いものです。そのため医療クラークには診療がスムーズに進むよう、相手に合わせた適切なコミュニケーションができること、臨機応変に対応する力が求められます。
行政上の各種業務
医療クラークは、行政との連携に関する業務も担当します。
主な業務内容は以下のとおりです。
● 救急医療情報システムの入力業務
● 各種統計の作成
● 行政への報告書作成
医療保険制度に関する知識が必要となる専門性の高い仕事です。作成後は必ず医師に確認を依頼し、行政へ書類を提出します。
医療クラークの役割
医療クラークの仕事は、大きく分けると、外来クラークと病棟クラークの2種類の役割があります。
それぞれの特徴について、詳しく見ていきましょう。
外来クラーク
外来クラークは、病院の外来部門に所属し、患者の受付から診察までの流れをスムーズにする役割を担います。
業務内容は以下のとおり、多岐にわたります。
● 患者の受付対応や案内
● 電話対応
● 診療予約の管理
● 書類・検査データの管理
● 医師の指示に基づくカルテの入力
外来クラークは、患者と医療スタッフの橋渡し役ともいえる存在です。そのため高いコミュニケーション能力と臨機応変な対応力が求められます。
病棟クラーク
病棟クラークは、入院患者に関わる業務を行います。スタッフステーションに常駐し、医師や看護師の業務支援、患者の入院生活の質向上をサポートします。
病棟の配属人数や患者数によって、さまざまな仕事を任されます。主な業務内容は以下のとおりです。
● 入退院の手続き
● 他部署との連携
● 病棟事務作業
● 医師の回診のサポート
● 面会者の対応
● 医療品や事務用品の管理・手配
● 伝票管理や封筒の宛名書き・コピー業務
医療クラークと医療事務の違いは?
医療クラークと似ている仕事のひとつに、「医療事務」があります。
医療クラークと医療事務、どちらも医療機関で事務的なことを行う職種ですが、取り組む業務の内容や範囲が異なります。それぞれの主な役割を表にまとめました。
項目 | 医療クラーク | 医療事務 |
主な業務内容 | 医師・看護師のサポート 診療記録の作成補助 | レセプト業務 受付対応 会計 |
職場 | 病院・クリニック内の診療部門 | 病院・クリニックの受付や事務部門 |
業務範囲 | 主に医療現場での書類作成やデータ入力 | 会計処理・保険請求・患者対応など事務全般 |
主な目的 | 診療業務の効率化・サポート | 医療機関の運営全般の支援 |
医療クラークの主な役割は、医療現場における診療業務の効率化や事務的なサポートです。医師や看護師と密接に連携を行うにあたり、より専門的な知識が求められるでしょう。
それに対し、医療事務は病院全体の事務運営を担当します。会計窓口や受付に駐在し、明細書の作成、来院した患者の受付や診察費の受け取りなど、バックオフィス業務や患者とのコミュニケーションがメインの仕事となります。
医療クラークになるために必要な資格は?
医療クラークになるために必須の資格はありません。しかし、未経験で医療クラークとして働きたいと考えている人は、アピールできる資格を持っていた方が有利になるでしょう。
医療クラークに推奨されている資格として、次のものが挙げられます。
● メディカルクラーク(医療事務技術審査試験)
● ドクターズクラーク(医師事務作業補助技能認定試験)
● メディカル・フロント・コンシェルジュ
それぞれの資格の特徴について解説していきます。
メディカルクラーク(医療事務技術審査試験)
メディカルクラーク(医療事務技術審査試験)の資格は、日本医療教育財団が主催する統一試験に合格することで取得できます。昭和49年度から実施されている知名度の高い試験で、受験者も多いのが特徴です。学科試験と実技試験があり、現場でのコミュニケーションや受付業務、基本的な医学や薬学、診療報酬にまつわる事務などについて問われます。
メディカルクラークの資格を持っていると、「クリニックや病院での事務業務に関するスキルや知識がある」と認定されます。医療クラークを目指す人にとって、大きな強みとなるでしょう。
参照元:医療事務技能審査試験(メディカルクラーク®)|資格試験/技能認定|日本医療教育財団
ドクターズクラーク(医師事務作業補助技能認定試験)
ドクターズクラーク(医師事務作業補助技能認定試験)の資格も、メディカルクラークと同様に一般財団法人日本医療教育財団が認定する資格です。資格を取得すると「医療文書の作成や医療に関する法律・法令などの知識がある」ことが認められます。
試験は学科・実技に分かれ、診療録(カルテ)や診断書・証明書の作成業務など、“医師事務作業補助職”として必要な基礎的知識・技能について出題されます。
参照元:医師事務作業補助技能認定試験(ドクターズクラーク®)|資格試験/技能認定|日本医療教育財団
メディカル・フロント・コンシェルジュ
メディカル・フロント・コンシェルジュの資格は、患者対応のスキルを証明する資格です。試験は学科試験のみで、接遇やコミュニケーション、医療保障制度、車椅子介助の基礎など、病院におけるフロント業務全般の基礎知識について出題されます。
患者と直接関わる機会の多い医療クラークにとって、強みとなる資格のひとつです。
参照元:メディカル・フロント・コンシェルジュ技能認定(メディカル・フロント・コンシェルジュ)|資格試験/技能認定|日本医療教育財団
医療クラークの収入
医療クラークの仕事は、看護師のように医療行為に関わらないこと、専門資格が必須でないこともあり、看護師と比較すると給与は低くなります。また、正社員だけでなく、契約社員や派遣社員などさまざまな雇用形態があるため、収入には幅があります。
厚生労働省の調査によると、医療クラークを含む医療系事務職全般の年間平均給与額・賞与・年収は以下のとおりです。
● 年間平均給与額 198万8,506円
● 平均賞与 38万9,412円
● 平均年収 237万7,918円
勤務先の規模や地域によっても差があり、規模の大きな病院や都市部であれば、給与が高くなる傾向にあります。また、病棟クラークには夜勤があるケースもあり、その場合には、夜勤手当が支給されます。
参照元:第24回医療経済実態調査の報告(令和5年実施)|厚生労働省
医療クラークは未経験でもなれる?
未経験者でも医療クラークになることができます。実際に、多くの医療機関で未経験者の採用が行われています。
ただし、医療クラークに関する資格を持つ人は比較的多く、人気の高い医療機関では、未経験者の就職の難易度が上がります。未経験から医療クラークを目指す場合には、以下の点をアピールできると有利になるでしょう。
● コミュニケーション能力に自信がある
● よく気が利き配慮ができる
● パソコン作業が得意である など
医療クラークに役立つ資格を取得しておくことも、採用の確率を高めます。
医療クラークのやりがい
医療クラークの仕事には、独特の大変さとやりがいがあります。
医療機関には、認知症や難聴を持つ人も多く訪れます。なかにはコミュニケーションをとるのが大変と感じる人もいることでしょう。また、カルテ入力や処方箋処理など、治療に関わる重要な業務も任されるため、大きな責任を感じることもあるかもしれません。
一方で、医療クラークは、人の役に立っている実感を得られやすい仕事です。患者はもちろん、医師や看護師から感謝の言葉をかけられる機会もよくあります。医療現場の運営をサポートし、人々の健康を支える医療クラークは、人の役に立ちたいと考える人にとって、やりがいの大きな仕事であるといえるでしょう。
まとめ
この記事では、医療クラークの仕事について詳しく解説しました。
医療クラークは、医療現場のスムーズな運営を支える重要な仕事です。医師や看護師のように必須資格はありませんが、コミュニケーション能力や医学・薬学、医療に関する法律・法令など、豊富な知識が求められます。看護師にとっても、きめ細やかな気配りで患者の対応や医療従事者のサポートを行う医療クラークは、非常に心強い存在です。
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