「ブランクがあるから看護師として働くのはむずかしいのではないか」そう考える人も多いでしょう。
近年、医療現場ではブランクのある看護師の復職を積極的に支援する動きが広がっています。充実した研修制度や働き方の選択肢も増えており、ブランクのある人も職場復帰しやすい環境が整ってきているのです。
この記事では、ブランクのある看護師が安心して復職するために知っておきたい情報を、事前準備から職場選び、具体的な支援制度まで、わかりやすく解説していきます。
潜在看護職の割合
資格を持ってはいるものの現場を離れている看護師のことを「潜在看護師」と呼びます。2020年の厚生労働省の資料によると、看護職員として就業しているのは約173.4万人です。
また、看護師免許を持ちながらも看護業に就業していない「潜在看護師(看護師・准看護師)」は2018年のデータより793,885 人(32.98%)で、65 歳未満では 695,461 人(31.11%)と推計されています。
参照元:看護師等(看護職員)の確保を巡る状況 厚生労働省
:厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)「新たな看護職員の働き方等に対応した看護職員需給推計への影響要因とエビデンスの検証についての研究」分担研究報告書(令和 2 年度)
看護師の就業者数と離職率
看護師の就業者数と離職率についてもみていきましょう。
看護師として就業している人は、年々増加傾向にあり、2020年時点での就業者数は約173.4万人にのぼります。そのうち保健師は6.7万人、助産師は4.2万人、正看護師は132.0万人、准看護師は30.5万人です。
一方、日本看護協会が2023年に発表した資料によると、2022 年度の看護職員の離職率は新卒採用者で10.2%、既卒採用者が16.6%という結果でした。
とくに離職率が高いのは東京都や大阪府などで、都市部の方が地方より離職率が高い傾向にあることがわかります。
また、離職者が多い背景には、新型コロナウイルス感染症蔓延の影響が示唆されています。
この調査によると、総退職者数が増加した病院のなかで、「新型コロナウイルス感染症が影響している(「大いに影響している」「やや影響している」)」と回答したのは 41.5%でした。
参照元:看護師等(看護職員)の確保を巡る状況 厚生労働省
日本看護協会「2023 年 病院看護実態調査」 結果
ブランクのある看護師が抱える不安
ブランクのある看護師は、復職に向けてさまざまな不安を抱えています。不安要素としてよく挙がるのは、以下の3つです。
● 以前の知識や技術が通用するか
● プライベートとのバランスがとれるか
● 小さい子どもを預けて働くことに抵抗がある
それぞれの内容についてみていきましょう。
以前の知識や技術が通用するか
医療技術の進歩は目覚ましく、数年のブランクの間にも医療現場には大きな変化が起こっています。
たとえば電子カルテシステムの導入や新しい薬剤・医療機器の発売により、看護師の日々の業務内容が大きく変わることはよくあります。10年前には当たり前に行われていた処置や看護ケアが、現在では古い方法だと認識されることも往々にしてあるものです。
また、ブランクがあると次のような不安を抱く人もいます。
● 採血や注射の技術が落ちているのではないか.
● 新しい医療用語や専門知識を覚えられないのではないか
● 緊急時の対応ができないのではないか
これらの不安は、ブランクのある多くの看護師に共通する悩みです。復帰したいという気持ちよりも不安の方が強く、一歩を踏み出せない人も少なくありません。
プライベートとのバランスがとれるか
仕事とプライベートとの両立は、多くの看護師にとって課題となります。
ブランクを経て復帰を志す看護師は、家庭を持っていることが多いでしょう。とくに夜勤や変則勤務のある職場では、看護師本人だけでなく、家族全体の生活リズムの調整が重要です。
家事や育児との両立、急な呼び出しへの対応、休日の確保など、さまざまな面で調整が求められることで、仕事と家庭とのバランスがうまく取れずに、退職を考えてしまう人もめずらしくありません。
しかし最近では、働き方改革の影響により、柔軟な勤務形態を導入する医療機関が増加しています。
また、育児支援制度や時差出勤制度を整える職場も増えており、以前よりブランクのある看護師が働きやすい環境は整ってきています。
夜勤なしのシフトや時短勤務・固定シフトなど、職場によっては働き方の選択肢が広がります。自分の生活スタイルに合った働き方ができるよう、職場探しは入念に行いましょう。
小さい子供を預けて働くことに抵抗がある
子育て中の看護師にとって、保育環境の確保は仕事を続けていくうえでの大きなポイントです。
看護師に限らず、小さな子どもがいる家庭では、子どもと過ごす時間が十分に取れなくなることを考慮し、復職を思いとどまる人もいることでしょう。
子どもの小さな時期に仕事を優先することへの罪悪感や不安は、多くの母親が抱く感情です。
また保育園の入園申請や延長保育の利用手続きなど、働き始める前の準備もかんたんではありません。保育園の空き状況や園と勤務先との距離をはじめ、考慮すべき要素はたくさんあるのです。
看護師の仕事は夜勤がある職場が多いため、通常の保育園だけでなく、夜間の預かり先の確保も重要です。さらに、子どもの急な発熱や体調不良など、緊急時の対応についても家庭内で体制を整えておく必要があります。
職場によっては院内保育所を完備しているところもあります。自分と家族にとってベストな環境が整えられるよう、じっくりと準備を進めていきましょう。
看護師として復職するために準備しておきたいこと
ブランクのある看護師が不安を解消し、より安心・スムーズに職場に復帰するためには、事前の準備が必要です。ここからは、看護師として現場に復帰するためにしておきたいことについて解説します。
最新の医療知識を仕入れる
復職の前に、基本的な看護・医療の知識を仕入れておきましょう。
近年では、インターネット上に看護師に役立つ情報を掲載するサイトが多くあります。情報収集を行い、基本的な医療知識や看護技術を復習しておきましょう。
YouTubeをはじめとする動画サイトにも情報が豊富にあります。看護に関する書籍を購入して勉強することも効果的です。
また医療機関には、潜在看護師に向けて復職支援の研修やセミナーを行っているところがあります。これらに参加してもよいでしょう。
自分に合ったスタイルでコツコツと勉強を進めていくことで、復職への不安が軽減できるはずです。
家族と話しあう
とくに子育て中の看護師が復職するには、家族の理解と協力が欠かせません。
事前に家族との役割分担や緊急時の対応についてしっかりと話し合っておくことが大切です。また家庭の状況を考慮したうえで、無理のない勤務体系や勤務時間を選ぶようにしましょう。
復職後の生活スタイルのイメージを膨らませシミュレーションをしておくと、復職先に求める条件がより具体的になります。
自分の希望を明確にする
復職先を選ぶ際には、自分の希望や条件を明確にしておくことが重要です。働き方や職場環境について、優先順位をつけながら整理しましょう。
たとえば、以下のポイントを意識して考えてみるとよいでしょう。
● 希望する勤務形態
● 通勤時間
● 給与条件
● 研修制度の有無
● 職場の雰囲気
● 実際に復職した先輩がいるか
● 育児との両立のしやすさ
自身の希望を整理しておけば、面接時にも自分の考えをしっかりと伝えられるようになります。
ナースセンターとは
ナースセンターは看護師の就職・復職を支援する公共機関で、国や都道府県知事の指定を受けた看護協会が運営しています。
ナースセンターは都道府県ごとに設置されており、職業紹介や復職支援研修など、さまざまなサービスを無料で利用することができます。
ここからは、ナースセンターの特徴を紹介します。
参照元:ナースセンターとは | 看護職の皆さまへ | 公益社団法人日本看護協会
無料で相談できる
ナースセンターでは、キャリアコンサルティングの知識を持った就業相談員に無料で相談することができます。看護師の復職事情に詳しいスタッフに不安や悩みを相談することで、復職に向けた具体的な解決策が見つかることでしょう。
職業紹介も受けられるため、相談と並行して復職に向けた就職活動を進められます。
復職のための研修が受けられる
各都道府県のナースセンターでは、復職を目指す人に向けた再就業支援等の研修を実施しています。
研修では、最新の医療知識や看護技術に関する情報を学び直すことができます。基本的な看護技術の実技研修も開催されているため、ブランクが長く医療や看護のスキルに不安がある人も安心です。
交流会で復職経験者の話が聞ける
さまざまなイベントが開催されていることも、ナースセンターの特徴です。
イベントによっては、実際に復職した先輩看護師や復職に向けて活動している人と交流する機会もあります。復職経験者の体験談を聞けることは、自身が復職を目指すにあたって大きなメリットになるでしょう。
またイベントで同じような立場の仲間を見つけることができれば、復職へのモチベーションも上がります。
インターネットで求人を検索できる
ナースセンターが運営する無料職業紹介サイト「eナースセンター」を使用すると、全国の看護師求人をオンラインで検索できます。
サイトでは条件別に求人を検索できる機能があり、希望の条件に合った求人を手軽に探せます。会員登録をすれば利用できるので、活用してみましょう。
ハローワークと連携している
ナースセンターは、ハローワークと連携しています。ナースセンターの相談員が地域のハローワークに出張する「出張相談会」や合同イベントの開催もあり、より広く求人を探すことができます。
ナースセンターが自宅から遠い場所にある場合は、ハローワークのイベントに参加してみるとよいでしょう。
離職時の届け出
看護師は、離職時に看護協会に自身の情報を届け出る必要があります。
これは「看護師等の人材確保の促進に関する法律(人確法)」の改正により2015年10月に開始された制度で、看護職は離職時に以下の情報を都道府県ナースセンターへ届け出ることが努力義務化されています。
● 氏名・生年月日および住所
● 電話番号・メールアドレス・そのほかの連絡先に関わる情報
● 保健師籍・助産師籍・看護師籍または准看護師籍の登録番号および登録年月日
● 就業に関する状況
届け出を行うと、復職時に役立つ研修や支援、アドバイスや情報提供を受けることができます。
看護師の復職におすすめの職場
ブランクのある看護師が復職先を選ぶ際には、プライベートとのバランスが取りやすく、看護技術に不安がある人でも始めやすい職場を選ぶとよいでしょう。
ここからは、ブランクのある看護師が働きやすい職場の特徴やおすすめの理由について見ていきます。
保育園
保育園は、子育て経験のある看護師にとって働きやすい環境です。子どもの健康管理や日常生活のお世話がメインの業務となり、医療機関のように医療行為が求められる機会はほとんどありません。
夜勤がなく、基本的に土日祝日が休みであることが多いため、ワークライフバランスを重視した働き方を目指す人におすすめです。
ただし、看護師の配置数は園の定員に関わらず1人の場合が多く、一部を除き他の看護師と相談したりサポートを受けたりすることはできません。
ブランク明けはとくに、自分の判断に不安を感じてしまう可能性があることは頭に入れておきましょう。
保育園での仕事は、自分の子育て経験を活かすことができます。ブランクがある人も子育ての経験が大きな強みとなるため、子どもと関わることが好きな人は検討してみましょう。
慢性期病棟
急性期病棟は、急変や緊急の対応も多く、スピード感のある判断や処置が必要となります。ブランク明けの看護師が勤務するにはハードルが高く感じてしまうことでしょう。
一方で慢性期病棟は、急性期病棟に比べるとゆっくりとしたペースで働くことができます。
長期入院の患者が多いため、ひとつひとつの医療処置や看護技術を繰り返しながら丁寧に学び直すことができることも特徴です。患者に寄り添う看護を実践しながら、じっくりとスキルや技術を身につけていきたい人に向いています。
なお、病棟では24時間体制で患者の看護ケアを行う必要があるため、夜勤が必須になります。慢性期病棟に復職を考えている人は、入職前に勤務体制や夜勤の回数などを確認しておきましょう。
復職にあたっては、在籍看護師の人数や入職後のサポート体制も大切なチェックポイントです。事前にしっかりと情報収集を行うよう心がけましょう。
健康診断センター
健康診断センターは、生活リズムが整えやすく、ブランクのある看護師の復職におすすめの職場です。
健康診断センターでの看護師の仕事は、健康な人の採血や視力・聴力検査などがメインです。業務内容がルーティン化されており、イレギュラー業務もほとんどないため、業務に早く慣れる事ができるでしょう。
勤務形態にもよりますが、残業がほとんどなく、土日祝日も休みのところが多いことも特徴です。ワークライフバランスを保ちやすいというメリットもあります。
ただし、固定された業務が多く働きやすい反面、看護師としての幅広いスキルやアセスメント能力を習得しづらいというデメリットがあります。看護師としてのキャリアアップを視野に入れている人は、注意しておきましょう。
長期視点でのキャリアプランを考慮したうえで、復職先を検討することも大切です。
介護福祉施設
介護福祉施設は、看護と介護の両面から高齢者のケアに携わることができる職場です。
医療機関と比べ医療処置の頻度が少なく、ブランクを機に知識や技術に不安を感じている人でも安心して働き始められるでしょう。
日常生活援助は介護職が主体で行うため、看護師は利用者の健康状態や安全の確認、服薬管理に専念できる場合がほとんどです。
介護福祉施設は地域に多く存在するため、通勤の便が良い職場を見つけやすいこともメリットです。じっくりと情報収集しながら、自分に合った施設を探してみましょう。
ただし介護福祉施設の中には看護師の配置人数が少ないところもあり、利用者の急変や健康相談への対処など、さまざまな判断を自分自身で行わなければならない場面もよくあります。
事前に看護師の配置人数やサポート体制について確認しておきましょう。
ブランク歓迎と記載されている職場
近年、ブランクのある看護師を積極的に採用する職場が増えています。求人案内に「ブランク歓迎」と記載されている職場では、充実した研修や働きやすい環境が整っていると考えてよいでしょう。
ブランク歓迎と記載がなかったとしても、以下のような特徴を持つ職場は、復職後も働きやすい傾向にあります。
● 研修制度が充実している
● プリセプター制度がある
● 短時間勤務ができる
● 子育て支援制度が整っている
● ブランクのある人を実際に雇用した実績がある
自身と同じようにブランクがある先輩ナースも多く働く職場であれば、馴染みやすいはずです。
また子育て中の看護師が多い職場は、急な子どもの体調不良で仕事を休んだ場合もお互いにフォローし合える環境が整っているものです。求人を探す際には、これらの情報を含めて情報収集してみましょう。
ブランクがある看護師の履歴書の書き方
復職にあたって記載する履歴書は、「ブランク期間はあるものの、仕事に前向きに取り組む姿勢がある」という印象を与えることが大切です。
以下のポイントを押さえ、採用担当者に好印象を与えられる履歴書を作成しましょう。
● ブランク期間は偽りなく記載する
子育てや介護など、ブランクが空いた理由やその期間に培った経験を説明しましょう。
● これまでの経歴や自身の看護スキルを正確に記載する
あなたの強みとなる部分です。これまで働いたことのある診療科や領域、今までに取得した資格など、詳しく記入しましょう。
● 希望の条件を明確に記載する
復職の際に希望条件がある人は、本人希望欄にわかりやすく記入しておきましょう。
希望が多すぎると柔軟性がないと捉えられてしまうこともあるため、優先度の高い条件に絞って書くようにすることも大切です。
志望動機の例文
履歴書の志望動機の内容は非常に重要です。志望動機の例文を見ていきましょう。
【例文】
〇〇大学病院の救急外来で6年間勤務後、第1子の出産・育児のために退職いたしました。第2子が小学校に入学し、時間にも生活にも余裕が出てきたため、復職を希望しております。ブランク期間中も、ナースセンターの復職支援研修に参加し、最新の医療知識と技術の習得に励んできました。入職後は私の強みであるコミュニケーション力を活かし、患者様に温かく寄り添った看護を提供したいと考えております。
まとめ
この記事では、ブランクのある看護師が安心して復職するために知っておきたい情報を解説しました。
ナースセンターやさまざまな支援制度を活用しながら、復職に向けて準備を進めていきましょう。先を見据えて準備を進めることで、無理なく再び看護師として活躍することができます。
復職に不安を感じるのは当然のことです。焦らずに段階的に準備を進めること、自分に合った職場を慎重に選ぶことを意識して、一歩ずつ、自分のペースで進んでいきましょう。
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