患者さんのアセスメントの基本となるバイタルサイン(略称:バイタル)。毎日の看護業務の中でバイタルサイン測定は必須となるため、基準値や注意点をしっかり把握しておくことが大切です。
そこで、バイタル測定の基準や方法、測定時の注意点について解説します。「バイタルサインについて十分に知っている」という人も、改めて参考にしてみてください。
バイタルサインとは?
バイタルサインとは英語の「Vital signs」のことで、日本語で「生命兆候」を意味します。生命兆候とは生きていることを示す指標です。医療分野の「バイタルサイン」とは、体温・血圧・脈拍・呼吸などのことです。
医師や看護師が「バイタルはいくつ?」というときは、主に体温・血圧・脈拍・呼吸の4つの指標の数値を指します。
バイタルサインの基準値と測定の目的とは
医療機関で診療を受けたり、入院したりする際には、必ずバイタルサインの測定が行われます。医師や看護師がバイタルサイン(体温・血圧・脈拍・呼吸)を知ることで、患者さんの基本的な健康状態を把握できるからです。
特に、入院患者さんの場合、バイタルサインの基準値から外れているかどうかだけではなく、数値の経過を観察することで、体調の変化や異常の発見につなげられます。
バイタルサイン測定により、患者さんのアセスメントを行うには、各測定項目の基準値を把握しておく必要があります。まずは、成人のバイタルサインの基準値についてみていきましょう。
成人 | |
体温(腋窩) | 36.0~37.0℃ |
血圧 | 120/80㎜Hg以下 |
脈拍 | 60~100回 |
呼吸 | 12~20回 |
バイタルサインの基準値は成人と小児で数値が異なります。また、小児のバイタルサインの基準値は成長段階によっても違います。小児のバイタルサインの基準値は以下です。
新生児 | 乳児 | 幼児 | 学童 | |
体温(腋窩) | 36.5~37.5℃ | 36.3~37.5℃ | 36.3~37.5℃ | 36.5~37.3℃ |
血圧 | 55~85/3~60㎜Hg | 70~100/50~65㎜Hg | 90~110/55~75㎜Hg | 100~120/60~75㎜Hg |
脈拍 | 120~160回/分 | 80~150回/分 | 65~120回/分 | 60~100回/分 |
呼吸 | 30~70回/分 | 25~55回/分 | 20~30回/分 | 15~25回/分 |
学童期以前の子どもは生理機能が未熟であるため、バイタルサインが変動しやすい特徴があります。特に小さい子どもの場合には、動いたり泣いたりすることでも基準値は変化します。
子どものバイタルサインを測る時は、本人が落ち着いた状態で行うのがポイントです。
バイタルサインの測定の流れ
バイタルサインの測定は、基本的な看護技術です。医療機関にもよりますが、少なくとも1日1回は患者さんの健康状態を把握するために、バイタルサインを測ります。ここでは、改めてバイタルサインを測る手順についてみていきましょう。
1.患者さんへの説明と同意
バイタルサインを測る際には、患者さんに説明をして同意を得る必要があります。意識がない患者さんでも、「これから体温や血圧を測りますよ」と声かけをしたり、お見舞いに来た家族に説明をしたりしてから計測するようにしましょう。
2.測定開始
主なバイタルサインの4つの指標である「体温」「血圧」「脈拍」「呼吸」の測定は、どの項目からでも行えます。一般的には、看護師が患者さんへ説明する際に、「体温を測りますね」と声かけをすることが多く、体温から計測する傾向にあります。
バイタルサインは、朝・昼・夕の1日3回測るのが基本ですが、ただルーチンのように測ればよいというわけではありません。患者さんのバイタルサインは、当日の健康状態によって計測値が変化するものです。
例えば、手術から帰室した患者さんであれば、頻回なバイタルサインの測定が必要になります。また、状態が安定している患者さんの場合、日中の1日1回は体温・脈拍・血圧・呼吸をしっかり計測して、朝や夕は必要な項目だけ測定することもあります。
このように、バイタルサインの測定はルーチンで行うのではなく、患者さんの状態やその時々の状況によって行う必要があります。特に、夜勤の終わりを迎える朝の時間帯は、看護師数が少ない中で病棟の全患者さんをみなければならず、バイタルサインを測るよりも優先すべきことが出てくることもあるでしょう。
看護師が業務の中でバイタルサインを測るときは、病棟の規定に加え、自分なりにアセスメントをし、必要性があると判断したときに計測することも大切です。
バイタルサイン測定時のポイント
現在、多くの医療機関ではバイタルサインの測定に電化製品を使用しています。ここからは、バイタルサインの各項目の計測方法のポイントについてみていきます。
体温
現在、多くの医療機関では、体温測定は水銀体温計ではなく、電子体温計(予測式)を使用しています。予測式の電子体温計は、体温の上昇の程度から予測値を計算し、表示してくれるため、30秒から1分という短い時間で体温を測ることができます。
また、体温計を測っているあいだに、もう一方の腕で血圧や脈拍を測ることもできます。
測定する位置
体温には、腋下体温・口腔内体温・直腸体温がありますが、バイタル測定の際では一般的に腋下の体温を測ります。腋下体温は、腋の斜め下30度に挿入し、腋のくぼみの中心分に体温計の先端が当たるようにします。
腋下体温を測るには、腋をしっかり密着させる必要があるため、もう片方の腕で計測側の二の腕を支えるようにしましょう。
測定方法と注意点
電子体温計を脇に当てたら、スタートボタンを押します。30秒から1分ほどすると電子音が鳴り、計測値が表示されます。
腋下体温を測る際、腋が汗で濡れていると正確な数値を計測することができません。汗が蒸散すると、気化熱により体表の温度が低くなるからです。患者さんが発熱などで発汗しているときは、体温測定の前に汗を拭き取る必要があります。
また、成人の体温測定は、看護師が患者さんに体温計を手渡して、自身で計測してもらうこともよくあります。正しい体温計の当て方を知らない患者さんも多いので、計測方法を説明した上で計測してもらいましょう。
血圧
看護学生時代は水銀血圧計で測定していた人が多いのではないでしょうか。医療機関の多くは看護業務の効率化すべく電子血圧計を採用しています。
2020年には、国際条約により水銀を用いた機器の製造や輸出入が原則禁止となったため、水銀血圧計の使用はますます少なくなっていくでしょう。
測定する位置
電子血圧計にはマンシェットを上腕に巻くタイプと、手首に巻くタイプの2つがあります。医療機関で用いられるのが、より正確な測定値が得られる上腕用の電子血圧計です。
患者さんの血圧を測るときは、肘より1~2㎝部分にマンシェットの下部が来るように、すき間なく巻きましょう。
測定方法と注意点
電子血圧計は上腕部にマンシェットを巻いた後、スタートボタンを押すと加圧と減圧が起こり、測定値を自動で表示させます。
電子血圧計は、患者さんが座位でも仰臥位でも使用することができます。血圧を測定するときは、患者さんの心臓の位置と電子血圧計が同じ高さになるようにしましょう。
正しく血圧を測るためには、マンシェットの巻き方にも注意が必要です。上腕部にマンシェットをきつく巻くと、血圧の数値が高く出やすくなります。反対にゆるく巻くと、上腕部が十分に加圧されずに数値が低く出やすくなります。
また、乳がんでリンパ節郭清を受けた側の腕、血液透析のためのシャントがある腕には血圧測定を行えません。バイタルサイン測定で血圧を測る際には、病歴についても確認しておきましょう。
脈拍
脈拍とは、心臓の拍動によって血液が流れ、末梢血管まで到達するときに起こる波動のことです。
測定する位置
脈拍はさまざまな部位で触れますが、バイタル測定で用いるのは「橈骨(とうこつ)動脈」です。橈骨動脈は手首の真ん中より少し外側にあります。
測定方法と注意点
橈骨動脈で脈拍を測定するときは、示指・中指・薬指を当てます。脈が規則的に打っていれば、「15秒間の脈拍数×4」や「30秒間の脈拍数×2」で1分あたりの脈拍数を計算します。脈拍の拍動が不規則の場合は、1分間あたりの脈拍数をカウントしましょう。
なお、電子血圧計やパルスオキシメーターを用いる際には、メインの数値(電子血圧計なら血圧の数値、パルスオキシメーターならSpO2)の下側に脈拍の数値が表示されます。
呼吸
呼吸数は1分間あたりの呼吸回数をカウントします。患者さんに呼吸数を計測する旨を伝えると、本人が意識してしまい正確な呼吸を数えられなくなります。患者さんが意識していないときに呼吸数を測る必要があります。
またバイタル測定で呼吸回数を測るときは、呼吸状態についても観察しましょう。
バイタルサインと合わせて観察が必要な項目
バイタルサインの測定では、基本的に体温・血圧・脈拍・呼吸の4つの項目を測りますが、患者さんの状態によっては、その他の項目も合わせて観察する必要があります。
バイタルサイン測定とともに観察すべき項目は以下です。
血中酸素飽和度(SpO2)
血中酸素飽和度は動脈血中に含まれている酸素の割合を示す指標です。血中酸素飽和度を測定する際、パルスオキシメーターを使用します。患者さんの指にパルスオキシメーターをはさんでしばらくすると、数値が表示されます。
血中酸素飽和度の正常値は96~100%です。もともと呼吸器疾患がある患者さんの場合は、95%以下で推移することもありますが、いつもより数値が低めになっている場合は、呼吸状態の悪化や急変の兆候の可能性もあります。リーダーナースや医師に速やかに報告し、酸素投与や痰の吸引など必要な処置を行いましょう。
意識レベル
意識レベルの観察では、患者さんの覚醒状態を評価します。意識レベルを観察することで、頭部外傷や脳血管障害の重症度を把握することができます。一般病棟では、患者さんが意識清明であることが多いのに対し、救急病棟やICUでは意識がはっきりしていない人も多く、バイタルサイン測定時に意識レベルの観察も必要になります。
意識レベルの観察方法にはいくつかありますが、医療機関でよく用いられているのが「ジャパン・コーマ・スケール(Japan Coma Scale:JCS)」です。
JCSでは数字が大きいほど、意識レベルが低いことを意味します。
I:刺激しないでも覚醒している状態 | |
0 | 意識清明 |
Ⅰ-1 | だいたい清明であるが、今ひとつはっきりしない |
Ⅰ-2 | 見当識障害がある(場所や時間、日付が分からない) |
Ⅰ-3 | 自分の名前、生年月日が言えない |
Ⅱ:刺激で覚醒するが、刺激をやめると眠り込む状態 | |
Ⅱ-10 | 普通の呼びかけで容易に開眼する |
Ⅱ-20 | 大きな声または体をゆさぶることにより開眼する |
Ⅱ-30 | 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すことにより開眼する |
Ⅲ:刺激しても覚醒しない状態 | |
Ⅲ-100 | 痛み刺激に対し、払いのける動作をする |
Ⅲ-200 | 痛み刺激に対し、少し手足を動かしたり、顔をしかめたりする |
Ⅲ-300 | 痛み刺激に反応しない |
尿量
尿量は患者さんの循環動態を観察するために必要な測定項目です。特に、心臓や腎臓に疾患のある患者さんやターミナル期の患者さんの状態を把握するのに役立ちます。
周術期は、尿量のチェックを頻回に行います手術中の出血や不感蒸泄、体液のサードスペースへの移動などを考慮し、in-outバランスをチェックする必要があるためです。尿量の基準値は以下です。
一日あたりの最低必要尿量(ml)=体重×0.5ml×24 |
患者さんの顔色や様子
患者さんの健康状態をアセスメントするには、計測値を確認するだけでなく、患者さんの様子を観察することも大切です。バイタル測定時に、患者さんに顔面蒼白や冷や汗がないかなども合わせて確認しましょう。
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まとめ
バイタルサインの測定は、看護ケアの中でも最も基本的な技術です。日々の業務の中でもバイタルサインを測る機会は多いので、きちんと計測できるようにしておきましょう。
また、計測後は基準値から外れていないかを確認し、他の観察項目も参考にしながら、患者さんの健康状態をきちんとアセスメントする必要があります。患者さんの状態に異常がみられるときは、リーダーや医師にすみやかに報告しましょう。