プライマリーナーシングは、多くの病院で採り入れられている看護方式のひとつです。単独でなくても、他の看護方式と組み合わせてプライマリーナーシングを展開している病院は多数あります。
この記事では、プライマリーナーシングの特徴やポイントについて、他の看護方式との比較も交えて解説します。プライマリーナーシングを採用する病院で働く看護師は、その目的やプライマリーナースの役割について改めて振り返り、患者さんの看護ケアに役立てましょう。
プライマリーナーシングとは
プライマリーナーシングとは、1人の看護師が1人の患者さんを担当し、入院から退院まで受け持つ看護方式のことです。受け持ち看護師は、患者さんと密接に関わり、責任を持って看護計画の立案・実施・評価を行います。
看護方式の種類
プライマリーナーシングの他にも看護方式にはいくつかの種類があります。それぞれの看護方式について、プライマリーナーシングの特徴と比較しながらみていきましょう。
プライマリーナーシング | ・1人の看護師が1人の患者を入院から退院まで受け持つ ・受け持ち看護師が担当患者と中心的に関わり、看護計画の立案・実施・評価を行う |
患者受け持ち方式 | ・勤務日ごとに決められた患者を受け持つ |
PNS(パートナーシップ・ナーシング・システム) | ・看護師がペアになり、複数の患者を受け持つ(先輩看護師と新人看護師の組み合わせが多い) |
チームナーシング | ・病棟内の看護師を複数のチームに分け、チームごとに複数の患者を受け持つ |
モジュール型継続受け持ち方式 | ・病棟内の看護師を数名ずつのモジュール(※)に分け、モジュール単位で担当患者を受け持つ |
機能別看護方式 | 看護業務の内容ごとに担当看護師を決める(点滴係・検温係など) |
※モジュール:病棟看護師を2つ以上のチームに分けて、さらにチーム内の看護師を数名ずつに分けたときの単位のこと。
新人看護師もプライマリーナースを任される?
多くの病院では、経験の少ない新人看護師に患者さんのプライマリーナースを任せることはありません。入職してから数か月のあいだ、新人看護師は基本的な看護業務や勤務帯ごとの業務内容を覚えることが優先されるためです。看護師1年目が終わる頃に独り立ちをしていれば、患者さんのプライマリーナースを任されるようになります。
まだ受け持ち患者のいない新人看護師でも、いずれはプライマリーナースになる日が来ます。先輩看護師が受け持ちの患者さんに対してどのような関わりをしているのか、日頃から見ておくとよいでしょう。
プライマリーナーシングを単独で採用している病院は多くない
看護方式をプライマリーナーシングのみとしている病院は少ないのが現状です。プライマリーナーシングを完全に遂行するには、受け持ち看護師が24時間体制で患者さんのケアに当たる必要がでてきます。看護師にも休養が必要であり、1人の看護師が1人の患者を24時間体制で受け持つことは現実的に不可能です。そのためプライマリーナーシングのみを採用するところは多くないのです。
プライマリーナーシングと他の看護方式との併用
多くの病院では、プライマリーナーシングと他の看護方式を組み合わせて看護ケアを提供しています。他の看護方式を併用することで、プライマリーナーシングに不足している部分を補い、また同時にそれぞれの方式の強みを活かした看護を提供することができます。
プライマリーナーシングと他の看護方式の組み合わせについて、実際に採り入られている例をみていきましょう。
チームナーシングとプライマリーナーシング
チームナーシングは、病棟全体を2~3つのチームに分けて、チームごとに患者さんを担当する看護方式です。プライマリーナースがいるときはプライマリーナースが担当患者さんを受け持ち、プライマリーナースが不在のときは、同じチーム内のメンバーが患者さんを担当します。チームナーシングを組み合わせることで、プライマリーナースが不在の時もチーム全体で患者さんをケアすることができるのです。
またプライマリーナーシング単独では、受け持ち看護師の経験値や看護観により、患者さんに提供する看護の質に差がでてしまうといった課題があります。チームナーシングを併用することで、プライマリーナース以外の看護師も患者さんと関わることができ、偏りの少ない看護を提供できます。
PNSとプライマリーナーシング
PNS(パートナーシップ・ナーシング・システム)は、看護師がペアになり、複数の患者さんを受け持つ看護方式です。PNSとプライマリーナーシングを組み合わせることで、患者さんには2人の受け持ち看護師がつくことになります。いずれかの看護師が不在のときも、もう一方の看護師が担当するため、患者さんは安心して入院生活を送ることができます。
また、受け持ち看護師自身も、相方の看護師に相談しながら、看護計画の立案や看護ケアを進められます。このためPNSでは、経験の少ない看護師のフォローのために、ベテラン看護師とペアにすることも多くあります。
プライマリーナーシングにおける看護師の役割・目標
プライマリーナーシングでは受け持ち看護師が大きな役割を果たします。プライマリーナーシングにおける看護師の役割と目標は以下です。
役割
プライマリーナーシングでは、担当患者の看護計画の立案から実践・評価まで、受け持ち看護師が責任を持ちます。そのためプライマリーナースは、患者さんの健康状態や置かれている状況に合わせて、適切な看護ケアを提供する必要があるのです。
目標
プライマリーナーシングの目標は、患者さん一人ひとりに合った看護ケアを提供することです。看護師が担当患者と深く関わることで、患者さんについての理解を深め、適切な看護を提供できるようになります。また、看護師が入院から退院まで一貫して患者さんを受け持つため、経過をしっかり見守ることができます。
プライマリーナースの役割
プライマリーナーシングにおいて、受け持ち看護師である「プライマリーナース」にはさまざまな役割があります。
1.看護計画を立案する
プライマリーナーシングでは、プライマリーナースが患者さんの看護計画を立てます。看護計画を立案するにあたって、患者さんをしっかりアセスメントし、看護診断を行わなければいけません。
入院翌日には看護計画が立てられていることがベストです。そのため、入院時に担当した看護師がそのまま患者さんのプライマリーナースとなることもよくあります。患者さんの性格や看護問題によっては、より適した人材が受け持ち看護師として選ばれることもあります。
2.看護ケアを実践する
患者さんに提供する看護ケアは、プライマリーナースが立案した看護計画に基づいて行われます。受け持ち看護師がいないときは、代わりの看護師が看護計画をもとに看護ケアを実施します。担当する看護師によって看護ケアの方法や質が変わらないように、誰にでも分かりやすい看護計画を立てることが求められます。
3.看護計画の評価・修正を行う
プライマリーナースが立案した看護計画は、定期的に評価し、必要に応じて修正します。看護計画の修正の際には、患者さんの状態に合わせ新たな看護ケアを計画に追加したり、新しく看護問題を挙げたりすることもあります。
多くの病院では、日勤帯の午後に病棟カンファレンスを開き、看護計画の評価を行っています。患者さんの看護計画をしっかり評価していくためにも、日頃から細やかなアセスメントやケアの提供に努めましょう。
4.退院支援を行う
退院指導を中心的に行うのも、プライマリーナースの役割です。患者さんによっては、退院後も継続して医療処置が必要になる人もいます。主な内容には、経管栄養・血糖値の自己測定・インスリン注射・在宅中心静脈栄養・在宅酸素療法があります。患者さんが退院するまでに、本人と家族に必要な医療処置を学んでもらえるよう、計画的に指導しましょう。
また、受け持ち患者さんが転院する場合は、プライマリーナースが看護サマリーを作成します。
5.最終評価を行う
受け持ちの患者さんが退院した場合には、退院日に最終評価を行い、看護計画を終了させます。患者さんの退院日にプライマリーナースがいないときは、その日の担当看護師が看護計画の最終評価をすることもあります。
プライマリーナーシングの3つのメリット
プライマリーナーシングには、患者さんにも看護師にもメリットがあります。具体的なメリットは次のとおりです。
患者さんの安心感を高められる
プライマリーナーシングでは、患者さんが受け持ち看護師を持つことで、安心して入院生活を過ごすことができます。受け持ち看護師は、入院期間中に責任を持って看護ケアを提供する必要があるため、訪室数も増えるものです。
患者さんと受け持ち看護師の信頼関係がうまく築ければ、患者さんも看護師に悩みや不安を打ち明けやすくなります。また、患者さんが自分の気持ちを打ち明けてくれれば、看護師も精神的な支援がしやすくなるでしょう。
個々の患者さんに合わせた看護ができる
プライマリーナーシングでは、患者さんそれぞれに合った看護ケアの提供がしやすくなります。看護業務は量や種類が多岐にわたるため、患者さんの病気の受容プロセスや家族へのケアなど、精神的な援助がおろそかになりがちです。
患者さんごとに受け持ち看護師を決めることで、看護師が患者と積極的に関わるようになり、患者さんも心を許しやすくなります。それにより、患者さんに最適な看護ケアを提供できるようになるでしょう。
やりがいに結びつきやすい
プライマリーナーシングは、看護師自身のモチベーションアップにも役立ちます。看護師は受け持ち患者について責任を持って、看護計画の立案から評価までを行わなければいけません。看護師が患者にじっくり向き合えたり、自分の看護観を反映しやすくなったりすることで、やりがいを持って働けるようになります。
仕事へのモチベーションが高まることで、日々の看護業務に対して前向きに取り組めるようになります。結果として患者さんにも質の高いケアが提供できるようになれば、やりがいも大きくなることでしょう。
プライマリーナーシングの3つのデメリット
看護師が受け持ち患者の責任を負うことになるプライマリーナーシングには、デメリットもあります。プライマリーナーシングによって生じやすいデメリットは次のとおりです。
患者さんとの相性により看護の質が変わる
プライマリーナーシングでは、1人の患者に対して1人の看護師がつきます。看護師も人間であるため、相性の良い患者さんもいれば、そうでない患者さんもいます。また患者さんのなかには、「新人看護師よりもベテラン看護師に受け持ってほしい」といった要望を持つ人もいるでしょう。
看護師と患者さんの双方が信頼関係を築けないと、プライマリーナーシングの強みである個別性のある看護ケアを提供することができません。現状の受け持ち看護師で、患者さんと上手くいかない場合は、担当を代えたり、他の看護師がサポートに入ったりする必要があります。
看護師により看護の質が変わる
プライマリーナーシングでは、受け持つ看護師によって看護の質にムラが起こりやすくなります。とくに、新人看護師のように経験や知識が少ない場合、適切な看護診断や看護計画の立案ができないことがあります。
また、受け持ち看護師が常時病棟にいるわけではないため、日によっては他の看護師が患者さんのケアをすることになります。看護をするスタッフが変わったり、いつもと異なるケアを受けたりすることで、患者さんが不満を持つこともあるでしょう。
看護師個人の責任や負担が大きい
プライマリーナーシングでは、受け持ち看護師の責任が大きくなります。看護師が的確に看護診断や看護計画を立てても、患者さんによってはケアの介入が上手くいかないこともあります。このような場合、受け持ち看護師がチーム内で責任を問われることになります。
とくに経験の少ない看護師であれば、問題の多い患者さんを受け持つことに精神的な負担を感じることもあるでしょう。その際は、先輩看護師や上司に相談するなどし、チームのサポートを得るとよいでしょう。
まとめ
プライマリーナーシングは、1人の看護師が1人の患者を入院から退院まで受け持つ看護方式です。プライマリーナーシングにより、患者さんとの関わりが増えて信頼関係が築けたり、個別性に配慮した看護介入をしやすくなったりします。看護師自身も患者さんへの理解や責任が増すことで、看護へのやりがいを感じやすくなります。
一方でプライマリーナーシングは、受け持ち看護師によって看護ケアに差が生じやすいため、チーム内でのフォローも欠かせません。このため、プライマリーナーシング単独ではなく、他の看護方式と組み合わせる病院が多くあります。単独方式でなくても、特定の患者さんのプライマリーナースを任されている人は、プライマリーナーシングの本来の目的や役割を意識したうえで、看護を実践してみるとよいでしょう。
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