医療現場におけるコンプライアンスとは?基礎知識を分かりやすく解説

医療現場におけるコンプライアンスとは?基礎知識を分かりやすく解説

医療現場におけるコンプライアンスとは?基礎知識を分かりやすく解説

昨今よく耳にする“コンプライアンス” という言葉、実は看護師にも深く関係しています。SNSや動画サイトなどでも「コンプライアンス的に…」「コンプラ違反」といった発言をよく耳にするかもしれません。とはいえ、実際はなんのことなのかイマイチわからないという看護師も多いことでしょう。

コンプライアンスとは、法律を守ることや社会的なルール・モラルに従うことを意味します。もちろん医療現場も例外ではありません。今回は医療現場におけるコンプライアンスについて、なぜ守らなければいけないのか、違反するとどのような罰則があるのか、現場での事例なども交えてわかりやすく説明します。

医療現場におけるコンプライアンスとは?

コンプライアンスは“法令遵守” を意味する言葉です。倫理観や公序良俗といった社会的なルール・モラルに従い、公正・公平な行動を取ることを指します。かんたんに言い換えると、「社会的なルールを守ること」といった意味合いです。

ただし医療現場におけるコンプライアンスは、一般的な意味合いとはやや異なります。医療現場におけるコンプライアンスは大きく分けて以下の3つです。

1.医療従事者におけるコンプライアンス…法令違反や倫理に反した行いをしないこと。具体的には、患者の権利・尊厳を尊重すること、個人情報保護に努めることを指します。

2.医療機関におけるコンプライアンス…患者の病状だけでなく、心理的・経済的・社会的側面も理解・考慮し、最適な医療を提供すること。また患者の人権やプライバシーを尊重すること。さらに、医療従事者にとって働きやすい環境を実現することも含みます。

3.患者におけるコンプライアンス…医療従事者の治療方針や指示に従うこと。定められた治療方針や指示を守って服薬をしたり、治療に臨んだりすることを指します。

どの立場であっても、コンプライアンスに抵触する行為は“コンプライアンス違反” となってしまいます。医療従事者がコンプライアンス違反をすると、勤務先の医療機関が社会的信用を失うおそれがあるほか、医療事故に発展することも考えられます。

医療現場におけるコンプライアンスは、患者の命に関わるものです。一般的な企業以上にしっかりと守らなくてはいけません。

医療法人と株式会社の違い

医療法人と株式会社の違いについて、よくわからないという看護師は多いかもしれません。これらの大きな違いは“事業目的” にあります。医療法人は「医療を行うこと」を事業目的とする法人です。

具体的には「病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所または介護老人保健施設を開設・運営すること」です。医療法人を設立するには、医療法が定める要件をクリアする必要があります。また医療法人は営利(=財政的な利益を得ること)を目的としない“非営利組織” に分類されます。そのため営利を目的に医療機関を開設しようとした場合には、設立の許可を受けることができません。

一方で株式会社は、株式を発行して集めた資金で運営する会社のことで、営利を目的とした“営利組織” にあたります。株式会社には決められた事業目的はなく、何を事業目的にするかは自由ですが、医療機関を運営することはできません。営利目的で医療機関を開設・運営することは認められていないからです。

医療機関の運営は人命にかかわる、極めて公益性の高い事業です。そこに営利組織である株式会社が参入してしまうと、患者に不利益が生じる可能性があります。そのため株式会社が医療機関を開設・運営することはできないのです。

医療現場においてコンプライアンスが重要な理由

コンプライアンスを守ることは、法的なトラブルを防ぎ、社会的信用を失わないために重要です。医療機関は人命に関わる事業を行う場。万が一、医療機関でコンプライアンス違反が起きれば、重大な医療事故につながる可能性もでてきます。その結果、患者の命に悪影響を与えることもあるでしょう。人命を預かる医療機関では、一般的な企業以上に高い倫理観が求められるのです。

また医療機関は命を扱う場所であると同時に、たくさんの個人情報を扱う場でもあります。医療機関にある個人情報は患者の氏名や生年月日・住所といったものだけでなく、体調や病気に関する内容も含みます。もしも流出させた場合、患者の社会的な評価に影響を及ぼすおそれもあります。そのため厚生労働省が定める「個人情報の守秘義務規定」に基づき、厳しく管理することが求められています。

医療現場におけるコンプライアンス関連の法律

ここまでは、医療機関と一般的な企業の違い、医療機関におけるコンプライアンスの意味合いについて紹介してきました。ここからは、医療現場におけるコンプライアンスに、どのような法律が関わっているのかを解説します。

①医師法

医師法とは、医師の免許・国家試験の制度、業務上の義務などを規定した法律のことです。医療の提供や業務範囲についても細かく定められています。現行法は1948年に施行され、安心・安全で質の高い医療を確保することを目的に2006年に改正されました。この改正により、不正行為や医療過誤などで行政処分を受けた医師に対し、厚生労働大臣は再教育研修の受講を命じられるようになりました。

また医師法のなかには罰則規定もあり、違反内容に応じて科される懲役や罰金についても記載されています。医師法では「医師以外の者が医業をすること」を禁じており、看護師が医師の指示なく医療行為を行えば法律違反となります。医師法のすべてを把握する必要はありませんが、罰則規定の項目だけでも目を通しておくとよいでしょう。

参考:医師法|厚生労働省

②医療法

医療法とは、医療機関の開設や管理に関する事項を定めた法律のことです。医療を受ける者の利益を保護すること、また良質で適切な医療の提供を確保することを目的に、1948年に公布されました。医師法が“医師個人”を対象とするのに対し、医療法は病院・診療所・助産所といった医療を提供する“事業所”を対象としています。医療法は時代の変化に伴い、これまでに30回以上改正されてきました。医師法と医療法、適用対象は異なりますが、いずれも医業の適正な運営を確保することを目的に制定されています。

参考:医療法| e-Gov法令検索

インフォームド・コンセントとは

医療の現場で日常的に行われている“説明”と“同意”のことを“インフォームド・コンセント” といいます。医師や看護師は患者とその家族に対し、病状や治療内容・検査などについてわかりやすく説明を実施。それに対して患者とその家族は、疑問や不安が解消できるまで説明を受け、納得したうえでその医療行為に同意する。これがインフォームド・コンセントです。

インフォームド・コンセントは、単に病状や治療内容を伝えて、同意書を得ることではありません。医療従事者は患者とその家族が病状や治療内容に納得できるよう説明し、患者が医療職や治療方針に対して、不安や不信感を抱くことのないよう支援する責任があるのです。

看護師の役割は、患者とその家族が医師の説明を十分に理解できるように、丁寧に情報を伝えることです。また同時に、患者とその家族の権利を尊重し、意思決定のためのサポートをすることも求められます。患者とその家族が何を知りたいのか、何を不安に思っているのか。看護師はそれぞれの想いに寄り添い、患者が十分な説明を受け、納得して意思決定ができるよう支援するのです。

参考:3.インフォーム・ドコンセント| 厚生労働省
参考:インフォームドコンセントと倫理| 日本看護協会

インフォームド・コンセントが困難な場合の対処方法

患者本人からの同意が得られない場合、医師は家族や保護者、代理人の同意のもとに治療を行います。インフォームド・コンセントが困難なケースには、以下のような状況があげられます。

 患者が未成年(18歳未満)である
 意識障害や認知症などにより意思疎通が行えない
 急を要する状態である
 がんや難病の告知など、病名を伝えることで患者にショックを与えるおそれがある

こういった際は、患者本人ではなく、家族や保護者、代理人の同意が採用されます。もし代理人等がいない場合には、倫理的配慮に基づき、医師やケアチームら複数名で協議し、判断を下します。

③刑法

刑法は犯罪と刑罰に関する法律です。犯罪とは何か、またそれぞれの犯罪に対してどのような刑罰が科されるかが規定されています。刑法は1907年に制定され、その後何度か改正されました。

刑法の持つ役割は2つあります。1つ目は、「刑罰を定め、人々の行動を規制する」こと。2つ目は「一定の行為を禁止し、法律によってもたらされる利益を守る」ことです。

一見、医療従事者には関係がないように思えるかもしれませんが、刑法には医療従事者の守秘義務についての規定も含まれています。次の項目では、医療従事者等の守秘義務について詳しく説明します。

参考:刑法| e-Gov法令検索

医師等医療従事者の守秘義務

医療等医療従事者の守秘義務については、刑法に以下のように記載されています。

刑法134条(秘密漏示)第1項
「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。」

これは正当な理由がなく、業務で知り得た患者個人の秘密=個人情報を漏らした場合、懲役または罰金が科されるという内容です。
看護職のうち助産師の守秘義務の規定は、刑法に定められています。保健師・看護師の守秘義務については、保健師助産師看護師法(保助看法)で以下のように定められています。

 保健師、看護師または准看護師は、正当な理由なく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。
 保健師、看護師または准看護師でなくなった後においても同様とする。
 この規定に違反した者は、6か月以下の懲役または10万円以下の罰金に処せられる。

とくに「保健師、看護師または准看護師でなくなった後においても同様」という点には注意が必要です。ライフステージの変化や定年退職により職場を去った後でも、看護職は業務上知り得た情報を漏らしてはいけません。これは助産師も対象です。

引用元:保健師助産師看護師法 | e-Gov法令検索

捜査機関から照会を受けた際の対応方法

警察や検察といった捜査機関から患者の診療情報等の照会を求められた場合は、刑法134条1項に記されている「正当な理由」に該当するため、情報開示・提供を行うことは守秘義務違反にはなりません。では医療従事者は、捜査機関の照会請求に対し、必ず応じなければならないのでしょうか。一般的には照会を求められたものには応じるべきとされていますが、応じなかったとしても罰則等が科されることはありません。

また、刑事訴訟法149条では「業務上知り得た他人の秘密について証言を拒むことができる」と定められています。つまり法律上は、捜査機関からの照会請求に対し、医療従事者が守秘義務を理由に情報開示・提供を拒絶することもできます。

ただし、守秘義務を理由に情報開示・提供を拒絶すべき事案は多くないでしょう。もし患者から打ち明けられた秘密が、捜査のなかで必要性が高いと感じられるようなものでなければ、一旦回答を保留し、その必要性について捜査機関に説明を求めるのがよいでしょう。

他の医療機関への情報の開示は可能?

他の医療機関から情報の開示を求められた場合も、情報提供は可能です。開示できるのはおもに、カルテ・看護記録・処方箋・検査記録・検査結果報告書・エックス線写真など。一般的に、他院から提供された紹介状や診断画像は開示できません。

身近な例は患者の転院です。主治医から転院先へ情報提供が必要となった場合、主治医は患者から“紹介状(正式名称:診療情報提供書)” の発行を求められます。紹介状は主治医が他の医療機関に患者の診療を託すにあたり、紹介先の医療機関の担当者宛に作成・提出するものです。

主治医が患者の転院先の担当者宛に情報提供を行うことで、転院先は患者に対する正しい情報を得ることができます。紹介状には、氏名・住所といった基本情報にくわえて、疾病名や治療の経過、投薬状況なども含まれるからです。

なお紹介状の発行は本来医師の業務ですが、最終的に医師が確認し、署名をするのであれば、看護師や事務職員が代筆することもできます。代筆をする際には、情報に不備がないか、十分に注意しましょう。

上の項目で紹介した転院時のほか、患者がセカンド・オピニオンを受ける場合も、紹介状があると便利です。そのため医療機関によっては、セカンド・オピニオンを希望する患者向けに紹介状を発行するところもあります。

紹介状には治療の経過や検査結果などの資料も添えるため、一般的に準備に2週間程度を要します。他の医療機関への情報開示が行われるのは以下のようなケースです。

 専門医への紹介
 高度医療機関への紹介
 特殊な検査や精密検査が必要な際の紹介
 リハビリテーション施設への紹介
 患者の引越しによる通院先の変更 など

患者の病状はどこまで家族に説明するべきか

病状や手術の説明の際に、患者の家族が同席するケースは多いことでしょう。患者の病状は患者本人の個人情報です。たとえ相手が家族であっても、主治医や看護師ら関係者は、患者本人から同意を得ないまま、検査結果などの個人情報を第三者に告げることはできません。

もし患者の同意を得ずに家族に情報提供を行った場合、守秘義務違反にあたります。意図せず話の流れで言ってしまったとしても、患者の個人情報を漏らしたことに変わりありません。何気ない会話にも注意を払うことが大切です。

看護師や医師が守秘すべき患者の個人情報には、患者の氏名・生年月日・家族構成、現在の健康状態・病歴・診断名など、知り得たすべてのものが含まれます。また、亡くなった患者に対しても守秘義務は適用されます。患者の個人情報は慎重に取り扱うよう心がけましょう。

医療現場においてコンプライアンス違反を行った際のリスク

コンプライアンスは、守るべき社会的なルールやモラルであるということにくわえ、法律的な側面でも厳守しなければならないものです。ここからは、コンプライアンス違反を行った際のリスクや刑罰について解説します。

刑事罰を受ける

コンプライアンス違反が発覚した際には、刑事罰を受ける可能性があります。行政処分が下るケースもあり、医師の場合は戒告、医業停止・歯科医業停止(3年以内)、看護師の場合は業務停止や免許取消の処分を受けた実例も。なお、看護師が行政処分を受けた場合には厚生労働省の再教育制度を受講する必要があり、これを受けないと保助看法第45条に違反し、刑事罰の対象となることもあります。

参考:保健師助産師看護師法| e-Gov法令検索

損害賠償責任が発生する

“善管注意義務違反” により患者に損害が生じた場合、民法709条の不法行為や民法415条の債務不履行責任に基づき、損害賠償責任が科されることがあります。善管注意義務とは、「医師が患者に対し最善の注意をもって医業を行う義務」 を指します。医療現場において医師は、一定水準以上の診療を行うことを求められます。つまり、この水準を満たさない診療を行ったと判断された場合、善管注意義務の過失により患者に不利益が生じたものとみなされるのです。

根拠条文

民法644条
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

民法709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法415条1項
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

引用元:民法 | e-Gov法令検索

医療機関の評判が失墜する

コンプライアンス違反によって生じる影響は、刑事罰や損害賠償責任にとどまらず、医療機関の評判にも関わります。違反をしたことで訴訟に発展したり、メディアで報道されたりすれば、医療機関のイメージが損なわれます。

とくに、不正受給や情報漏洩といったコンプライアンス違反は、患者や一般市民からの信頼を失いかねません。それにより患者数が減少し、経営状態に影響を与えることもあります。最悪のケースでは経営破綻・倒産に陥ることもあるでしょう。医療機関の倒産は一般企業と比べると少ないものの、コンプライアンス違反が医療機関の評判と、その経営状態に与える影響ははかり知れません。

医療現場におけるコンプライアンス違反を防ぐための対策

ここからは、日常的に実践できるコンプライアンス違反の防止策を紹介します。日ごろからコンプライアンスを意識するだけでも注意力が高まり、違反を防ぐことにつながります。以下のふたつは、医療機関や医療従事者がとくに注意すべき点です。

院内で掲示するべき事項

医療機関には“院内掲示” をする義務があります。掲示事項は医療法14条の2で定められており、内容は以下の通りです。

医療法施行規則第9条の3
① 管理者の氏名
② 診療に従事する医師又は歯科医師の氏名
③ 医師又は歯科医師の診療日及び診療時間

引用元:医療法施行規則| e-Gov法令検索

なおこれらは「診療所の入口、受付または待合所付近の見やすい場所」に掲示する必要があります。またこのほかに、個人情報の利用目的をできる限り特定し、その目的を公表・掲示するよう定められています。

根拠条文
医療法14条の2第1項
病院又は診療所の管理者は、厚生労働省令の定めるところにより、当該病院又は診療所に関し次に掲げる事項を当該病院又は診療所内に見やすいよう掲示しなければならない。
一 管理者の氏名
二 診療に従事する医師又は歯科医師の氏名
三 医師又は歯科医師の診療日及び診療時間
四 前三号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

カルテには詳細を記録する

医療機関で働く看護師が日常的に行うカルテ記入。これはコンプライアンス違反の予防にもつながるものです。万が一医療事故が起こった際、カルテは重要な証拠となります。患者との会話内容や医師の判断の正確性を客観的に証明できるからです。自身の働く職場を守るためにも、カルテはできるだけ詳細に、かつ正しく記録しましょう。

まとめ

看護師として働くうえで、コンプライアンスは切っても切れないものです。違反をしないことはもちろんですが、ふだんの業務からコンプライアンスを意識し、万が一の事態に備えましょう。コンプライアンス違反が原因で、最悪の場合、勤務先が倒産する可能性もあります。コンプライアンスを遵守することは、自身の立場を守ることでもあるのです。「自分は大丈夫」と過信せず、常に“もしも”の事態を視野に入れておきましょう。

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